ユカギール人

ユカギール人：シベリアの古代民族の知られざる歴史と文化

ユカギール人は、ロシア連邦サハ共和国、マガダン州、チュクチ自治管区のコリマ川流域に居住する先住民族です。古くはバイカル湖周辺から北極海沿岸まで広く分布していたと考えられており、北東アジア最古の民族の一つに数えられています。

かつてはレナ川からアナディル川河口に至る広大な地域に9000人ほどが暮らしていましたが、17世紀からのロシア人の入植、19世紀の伝染病流行、他民族との同化などにより、人口は激減しました。現在、ユカギール人は大きく分けてツンドラ地帯に暮らす北部ユカギールと、タイガ地帯に暮らす南部ユカギールに分類され、それぞれ異なる生活様式を営んでいます。

部族と生活様式

かつては多くの部族が存在していましたが、現在では大きく分けて3つの部族が確認されています。そのアイデンティティも薄れつつありますが、主な部族は以下の通りです。

ヴァドゥル (Vadul)： ツンドラ・ユカギールにあたり、主にトナカイを飼育する遊牧生活を送っています。人口は700人以上と推定されています。「力強い」という意味を持つと言われています。
オドゥル (Odul)： タイガ・ユカギールにあたり、狩猟採集生活を営んでいます。人口は400人未満と推定されています。ヴァドゥルと同様に「力強い」という意味を持つと言われています。
* チュヴァン (Chuvan)： チュクチ語を使用していますが、起源はユカギール人であると考えられています。2002年の統計では人口は1087人でした。かつてはチュクチ人と共に生活していましたが、現在はコリマ川流域に住んでいます。

2002年の統計では、ヴァドゥルとオドゥルを合わせた人口は1509人でした。

言語

ユカギール人の母語であるユカギール諸語は、その言語系統が長らく謎とされてきました。ウラル語族との関連性を指摘する説が有力視されてきましたが、近年では、Jäger et al. (2017) の研究により、カルトベリ語との関連性が示唆されています。これは言語系統の分類に新たな視点を与える発見と言えるでしょう。現在では、多くの人がヤクート語やロシア語を使用しており、ユカギール語話者は200人以下と推定され、絶滅の危機に瀕しています。

宗教

正教会の布教によりキリスト教徒も多いですが、伝統的なアニミズム・シャーマニズムも根強く残っています。太陽神を頂点とした多様な精霊信仰と、シャーマンの死後の神格化などが特徴です。

遺伝子

ユカギール人の遺伝子研究は、彼らの起源と移動を解き明かす上で重要な手がかりを提供しています。複数の研究から、Y染色体ハプログループはC2、N1a1、Q系統が比較的多く見られることが分かっています。これらのハプログループは、ツングース系[[民族]]、モンゴル系[[民族]]、チュルク系民族など、周辺地域に居住する民族とも共通しています。しかし、研究によって結果にばらつきがあり、系統の解釈も様々です。例えば、ハプログループN1a1は、ヤクートの主流系統とは異なり、むしろ非ヤクートのチュルク系民族、モンゴル系[[民族]]、チュクチやコリャークなどに多く見られる系統と近縁であると示唆する研究もあります。また、ハプログループR1a1やI2aといった、ロシア人の遺伝的影響を示唆するハプログループも確認されています。ミトコンドリアDNAに関しては、チュクチ人との間に類似点は見られないという結果も出ています。これらの結果は、ユカギール人の複雑な歴史と、周辺民族との多様な交流を示唆しています。今後の研究によって、より詳細な情報が明らかになることが期待されます。

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