ユダヤ戦記

『ユダヤ戦記』

『ユダヤ戦記』は、1世紀にフラウィウス・ヨセフスによって記されたユダヤ戦争の詳細な記録で、全7巻から成ります。ヨセフスは、ユダヤ側の指揮官として戦いに関与していましたが、戦争の進行中にローマ軍に降伏し、その後は彼らの側で活動しました。これにより、彼はユダヤ戦争の貴重な証言者となり後にその体験を描くことになります。

成立の経緯

ヨセフスはガリラヤの町ヨタパタでの敗北を経て、ローマに投降し、その後はローマの指揮官、ティトゥスの下で従事しました。ローマ滞在中、彼は豊富な資料を基にしつつ自身の経験を統合し『ユダヤ戦記』を執筆しました。初版は80年ごろに完成したと考えられており、もともとはギリシャ語で書かれたとされています。また、ヨセフスの説明によれば、最初にアラム語版が存在していたものの、現存するものはありません。

彼の著作にはもともと6巻の構成がありましたが、後に第7巻が追加されました。各巻では、紀元前200年ごろから紀元70年に至るまでの歴史が語られ、特にユダヤ戦争の経緯に焦点が当てられています。

各巻の概要

『ユダヤ戦記』は以下のように7つの巻に分かれています：
1. 第一巻（紀元前200年ごろ-紀元前4年）：この巻では、マカバイ戦争やハスモン朝の成立までの歴史が記述され、続いてヘロデ大王の登場とその後の混乱が描かれています。
2. 第二巻（紀元前4年-紀元66年）：この巻ではローマによるユダヤの属州化、ユダヤ教の各派についての解説、そしてユダヤ戦争の発端が述べられています。
3. 第三巻（紀元67年）：ネロ帝による軍の派遣とガリラヤでの攻防を中心に描かれています。
4. 第四巻（紀元67-69年）：エルサレムへのローマ軍進撃やユダヤ人内部の抗争、そしてこの時期の混乱が語られます。
5. 第五巻（紀元70年）：エルサレム攻囲とその内部状況について。
6. 第六巻（紀元70年）：神殿の炎上、エルサレムの陥落が記されています。
7. 第七巻（紀元70-75年）：戦後のローマでの凱旋式やユダヤ人残党の抗戦が描かれています。

内容と評価

『ユダヤ戦記』は、古代のギリシャ・ローマの歴史書に倣い、登場人物の演説が頻繁に挿入されています。しかし、その内容には多くの人数の誇張や、後に発表された『自伝』との矛盾が見受けられ、古代から批判の対象となっています。それでも、この著書はローマ人に高く評価され、エウセビオスの著作などでも引用されることで、ユダヤ人に対する理解を含む重要な文献となったのです。

本書は、エルサレムの崩壊をイエスの教えと結びつける資料としても利用され、キリスト教の初期文献として位置づけられました。近代以降、様々な言語に翻訳され多くの読者に親しまれています。333このように、『ユダヤ戦記』は古代以来、重要な歴史的文献とされています。

日本語訳

日本では、土岐健治や新見宏、秦剛平によっていくつかの訳が出版されています。これにより、より多くの読者がこの貴重な歴史書を手に取ることができるようになりました。

もう一度検索