秦剛平

秦剛平（はた ごうへい）氏は、1942年生まれの日本の宗教学者、聖書学者であり、多摩美術大学の名誉教授です。その学術的貢献は、聖書学、ユダヤ教学、そして美術史といった幅広い分野に及び、特に聖書と美術の関係に着目した研究で知られています。

学歴と職歴

秦氏は東京で生まれ、1968年に国際基督教大学を卒業しました。ここでは聖書学と西洋古典学を専攻し、学問の基礎を築きました。その後、京都大学大学院に進み、1970年にキリスト教学の修士課程を修了しました。さらに研究を深めるため、アメリカのドロプシー大学大学院に進学し、1975年にユダヤ教学で博士号を取得しました。

帰国後、秦氏は京都産業大学で助教授を務めた後、1981年に多摩美術大学美術学部に助教授として着任し、1987年に教授に昇進しました。2012年に定年退任するまで、長年にわたり教鞭を執り、後進の育成に尽力しました。退任後は、名誉教授としてその功績を称えられています。

研究内容と業績

秦氏の研究は、聖書本文の研究にとどまらず、その歴史的背景や文化的影響にまで及んでいます。特に、聖書と美術の関係を深く掘り下げ、絵画や彫刻などの美術作品を通して聖書の物語や思想を読み解く独自の研究スタイルを確立しました。また、古代ユダヤの歴史、ヘレニズム時代のユダヤ教文献、初期キリスト教など、幅広いテーマに取り組み、その成果を数多くの著書や論文で発表しています。

主要な著書

秦氏は、多数の著書を執筆しており、その中には以下のようなものが含まれます。

『旧約聖書続編講義 ヘレニズム・ローマ時代のユダヤ文書を読み解く』(1999年)
『ヨセフス』(2000年)
『描かれなかった十字架 初期キリスト教の光と闇』(2005年)
『あまのじゃく聖書学講義』(2006年)
『乗っ取られた聖書』(2006年)
『旧約聖書を美術で読む』(2007年)
『新約聖書を美術で読む』(2007年)
『反ユダヤ主義を美術で読む』(2008年)
『異教徒ローマ人に語る聖書 創世記を読む』(2009年)
『絵解きでわかる聖書の世界 旧約外典偽典を読む』(2009年)
『美術で読み解く旧約聖書の真実』(2009年)
『美術で読み解く新約聖書の真実』(2009年)
『美術で読み解く聖母マリアとキリスト教伝説』(2009年)
『書き替えられた聖書　新しいモーセ像を求めて』(2010年)
『名画で読む聖書の女たち』(2010年)
『聖書と殺戮の歴史 ヨシュアと士師の時代』(2011年)
『天使と悪魔 美術で読むキリスト教の深層』(2011年)
『神の支配から王の支配へ ダビデとソロモンの時代』(2012年)
『美術で読み解く聖人伝説』(2013年)
『南北分裂王国の誕生 イスラエルとユダ』(2013年)
『空白のユダヤ史 エルサレムの再建と民族の危機』(2015年)
『マカベア戦記 ユダヤの栄光と凋落』(2015-16年)
『七十人訳ギリシア語聖書入門』(2018年)

これらの著書は、聖書の内容を深く理解するための貴重な資料であるとともに、美術史と聖書学を融合させた学際的な研究の成果として高く評価されています。

翻訳業績

秦氏は、翻訳家としても活躍しており、フラウィウス・ヨセフスの著作や、エウセビオスの『教会史』など、古代の重要な文献を日本語に翻訳し、日本における聖書学研究に大きく貢献しています。特に、七十人訳ギリシア語聖書の翻訳は、長年にわたるプロジェクトであり、その全貌が明らかになることで、より深く聖書を理解することが可能になりました。以下に翻訳の一部を紹介します。
『アピオーンへの反論』(フラウィウス・ヨセフス、1977年)
『自伝』(フラウィウス・ヨセフス、1978年)
『ユダヤ古代誌』(フラウィウス・ヨセフス、1979-81年)
『ユダヤ戦記』(フラウィウス・ヨセフス、1982年)
『教会史』(エウセビオス、1986-88年)
* 『七十人訳ギリシア語聖書』(2002年-2023年)

まとめ

秦剛平氏は、その幅広い知識と深い洞察力で、宗教学、聖書学、美術史の分野に多大な貢献をしてきました。特に、聖書を美術作品を通じて読み解くというユニークな視点は、多くの研究者に影響を与えています。その業績は、今後も長く後世に受け継がれていくことでしょう。

もう一度検索