ユリウス・ネポス

フラウィウス・ユリウス・ネポス

フラウィウス・ユリウス・ネポス（430年 - 480年）は、5世紀の西ローマ帝国の皇帝であり、帝位請求者として知られています。彼はレオ朝の皇帝と外戚関係にあり、一部の歴史家からは東ローマ帝国の承認を得ていたことから、彼の帝位請求は正当であったと考えられています。

生い立ち

ネポスは、ローマ帝国の貴族であるネポティアヌスの息子として生まれたと考えられています。父ネポティアヌスは皇帝によって軍務長官に任命され、南ガリアやヒスパニアの帝国領に派遣されました。母は、ダルマティア総督を務めたマルケリヌスの妹であったと伝えられています。出自については不明な点が多く、異説も存在しますが、叔父マルケリヌスの存在はネポスの台頭において重要な役割を果たしました。

マルケリヌスは、フラウィウス・アエティウスの配下として従軍し、アエティウス暗殺後には反乱を起こしました。その後、ダルマティア地方に強固な地方軍閥を築き、事実上の自治権を持つ総督として君臨しました。彼は、蛮族出身のリキメルの専横に対抗し、アンテミウスから重臣として迎えられました。しかし、468年にリキメルによって暗殺されました。

ネポスという名前は、ダルマチアにおいて権威を持つ一族に由来する可能性があります。ダルマチアでは、ネポスの名前が刻まれた貴族の記念碑が複数発見されています。

皇帝への道

ネポスは、東ローマ皇帝レオ1世の妻ウェリナの姪と結婚していました。この姻戚関係から、ネポスはレオ1世によって西ローマ皇帝グリケリウスに対抗する存在として擁立され、イタリアへ侵攻しました。グリケリウスは抵抗できずに降伏し、ネポスは皇帝フラウィウス・ユリウス・ネポスとして即位しました。

皇帝としての治世

皇帝として、ネポスは西ローマ帝国の残された領土の統合を目指しました。彼は西ゴート王国との交渉を行い、プロヴァンス地方の支配権を回復させることに成功しました。また、ヴァンダル王国との交渉も試みましたが、こちらは不首尾に終わりました。

しかし、ネポスは元老院との対立に苦しみました。元老院は、ネポスの後ろ盾であるレオ1世の存在を、西ローマ帝国の自主性を脅かすものとして警戒していました。さらに、レオ1世の死後、東ローマ皇帝となったゼノンはネポスを支持せず、ネポスの立場はますます不安定になりました。

ダルマティアへの亡命と暗殺

ネポスにとって致命的だったのは、軍務長官にフラウィウス・オレステスを任命したことでした。オレステスは反乱を起こし、ネポスはダルマティアへ脱出しました。オレステスは息子のロムルス・アウグストゥルスを皇帝に擁立しましたが、東ローマ皇帝ゼノンはこれを承認しませんでした。

476年、オドアケルによってオレステスが殺害され、ロムルス・アウグストゥルスは退位させられました。オドアケルは西ローマ帝国の帝位をゼノンに返還し、ゼノンはオドアケルにイタリア統治の権限を与えました。ゼノンはネポスに対して西ローマ帝位を諦めるように告げましたが、オドアケルはネポスの名と肖像を刻んだ貨幣を発行し、形式的にネポスの地位を認めました。

480年、ネポスは自らの護衛兵によって暗殺されました。暗殺の背景には、ネポス軍の将軍オヴィダの裏切りや、退位させられたグリケリウスの関与が疑われています。ネポスの死後、オヴィダはダルマティア総督としてオドアケルに承認されましたが、後にオドアケル軍によって攻め滅ぼされました。一方、グリケリウスはミラノ大司教に昇任されました。

ネポスの死は、西ローマ帝国の終焉を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

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