グリケリウス

グリケリウス：西ローマ帝国の知られざる皇帝

生涯

グリケリウス（Glycerius, 420年頃 - 480年）は、西ローマ帝国の皇帝として、473年から474年という短い期間在位しました。ホノリウス帝から数えて11人目の西ローマ皇帝ですが、東ローマ帝国からの承認は得られませんでした。彼の生涯は謎に包まれており、断片的な情報からその足跡を辿ることしかできません。

軍人時代

グリケリウスに関する情報は非常に少なく、歴史家のペニー・マクジョージは「グリケリウスについてはほとんど何も知られていない」と述べています。また、エドワード・ギボンは「無名の軍人グリュケリウス」と評しています。

420年頃、ダルマティアで生まれたグリケリウスは、軍人としてキャリアをスタートさせました。当時の西ローマ帝国は衰退の一途を辿っており、ゲルマン民族の侵入や内部の混乱が絶えませんでした。グリケリウスは、オリブリオス帝の下で皇帝大本営の将校団長官を務め、その才能を発揮しました。

皇帝即位

473年、オリブリオス帝の死後、グリケリウスはブルグント族のグンドバドによって西ローマ皇帝に擁立されました。当時の西ローマ帝国は、皇帝の権威が失墜し、蛮族の侵略に苦しんでいました。グンドバドの支援を受け、グリケリウスはラウェンナで皇帝を宣言しました。

しかし、東ローマ帝国のレオ1世は、グリケリウスをグンドバドの操り人形とみなし、彼の帝位を承認しませんでした。グリケリウスは東ローマ帝国との和解を試みましたが、レオ1世は親族のユリウス・ネポスを西ローマ皇帝に擁立することを決定しました。

治世と退位

グリケリウスの治世は短く、その間の出来事はほとんど知られていません。しかし、西ゴート族のイタリア侵攻を阻止し、東ゴート族との平和的な関係を築くなど、帝国を守るための功績も残しました。また、シモニア（教会職の売買）を禁止する法律を制定し、教会改革にも取り組みました。

474年、レオ1世の支援を受けたユリウス・ネポスがイタリアに侵攻すると、グリケリウスは抵抗することなく降伏しました。彼は退位後、ダルマティアのサロナの司教に叙任され、そこで生涯を終えました。

グリケリウスの政治

グリケリウスは、主に北イタリアを支配し、彼の治世から発見されたコインは、ほとんどがラヴェンナかミラノで鋳造されています。彼は、教会職の売買を禁止する法律を制定し、キリスト教的な「道徳」法を意識的に制定することで、聖職者からの支持を得ようとしました。

退位後

グリケリウスを失脚させたユリウス・ネポスは、西ローマ皇帝として即位しましたが、すぐに反乱が起こり、ダルマティアに逃亡しました。マルコスによると、グリケリウスはサロナ司教からミラノ大司教にまで上り詰め、その後ユリウス・ネポスの暗殺を組織する上で何らかの役割を果たしたとされています。

政治家としての評価

グリケリウスの治世が短いため、彼の政治手腕を評価するのは難しいですが、彼は最後の政治に意欲的な西ローマ皇帝であったと評価されています。その立法上の功績や国教キリスト教の保護政策は、彼の政治姿勢を明確に示しています。

グリケリウスは、西ローマ帝国の衰退期に現れた、短いながらも記憶に残る皇帝でした。

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