ユートゥルナ

ユートゥルナ：ローマ神話の泉の女神

ユートゥルナは、古代ローマ神話に登場する、清らかな泉や井戸を司る女神です。ラテン語では「Juturna」と表記され、長母音を省略した「Juturna」も用いられます。彼女は、単なる水の精霊ではなく、ローマ建国神話において重要な役割を担う神秘的な存在です。

ウェルギリウスの叙事詩『アエネーイス』によれば、ユートゥルナはラティウム地方のアルデア王ダウヌスとウェニーリアの娘であり、トゥルヌスの妹にあたります。トゥルヌスは、トロイア戦争で英雄アイネイアースと激しく対立したラティウムの王族です。

『アエネーイス』では、ユートゥルナは兄トゥルヌスを陰ながら献身的に支援する様子が描かれています。戦場でトゥルヌスが剣を落とした際には、新たな剣を供給し、危機に陥った際には命を救うなど、兄の勝利のために奔走しました。その力強い行動は、単なる妹の愛情を超えた、神としての力を感じさせます。

さらに、ユートゥルナは、ローマ神話における二面性神ヤーヌスとの間に、フォントゥスという子をもうけたとされています。この事実は、彼女が単なる女神ではなく、創造と再生という重要な側面を持つ存在であることを示唆しています。

ユートゥルナの卓越した能力と献身的な行動は、最高神ユーピテルの注目を集めます。ユーピテルは彼女を水のニュムペー（精霊）として認め、ラティウム地方のラウィーニウムにある聖なる泉を彼女に与えました。また、ローマの中心地フォルム・ロマヌムにあるウェスタ神殿の近くにも、ユートゥルナに捧げられた泉が造られました。後者の泉の傍らには池が作られ、「ユートゥルナの泉」と呼ばれ、人々に信仰の対象として崇められました。

しかし、ユートゥルナの人生は、常に平穏なものではありませんでした。ユーピテルとの間に密かな情事があったと伝えられています。しかし、その秘密は他のニュムペーであるラールンダ（ラレースの母）によって漏らされてしまい、激怒したユーピテルはラールンダの罰として、彼女に言葉を奪ってしまったのです。

ユートゥルナの物語は、ローマ建国神話の重要な一部を成しており、彼女の泉はローマ市民にとって聖なる場所として崇められました。彼女は単なる水の女神ではなく、家族を愛し、兄を献身的に支え、神々と関わりを持つ、多面的な魅力を持つ女神として、ローマ神話において重要な存在感を示していると言えるでしょう。彼女の物語は、ローマの文化や信仰、そして歴史を理解する上で、欠かすことのできない要素となっています。

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