ユーリヒ＝クレーフェ継承戦争

ユーリヒ＝クレーフェ継承戦争は、17世紀初頭にユーリヒ＝クレーフェ＝ベルク連合公国の継承権をめぐって2度にわたり勃発した紛争です。この戦争は、単なる領土争いにとどまらず、当時のヨーロッパにおける宗教的、政治的な対立が複雑に絡み合った結果として起こりました。

背景：宗教改革とヨーロッパの対立

16世紀に始まった宗教改革は、ヨーロッパ社会に大きな変革をもたらしました。ルター派やカルヴァン派などのプロテスタントが勢力を拡大する一方で、カトリック教会は対抗宗教改革を推進し、両者の対立は激化の一途を辿りました。こうした状況下、神聖ローマ帝国では、カトリック諸侯によるカトリック連盟と、プロテスタント諸侯によるプロテスタント同盟が結成され、宗教的な対立が政治的な対立へと発展していきました。

ユーリヒ＝クレーフェ＝ベルク連合公国は、現在のドイツ北西部からオランダにかけて広がる地域に位置し、その領土は約14,000平方キロメートルに及びました。この地域は、北イタリアと低地諸国を結ぶ「スペインの道」に近いことから地政学的に重要な拠点であり、また、八十年戦争の難民が流入したことで経済的にも発展していました。1609年、ヨハン・ヴィルヘルム公が後継者を残さずに死去したことで、この豊かな連合公国の継承をめぐる争いが勃発しました。

戦争の勃発と展開

ヨハン・ヴィルヘルム公の死後、複数の公位請求者が現れましたが、有力な候補は、ヨハン・ヴィルヘルムの叔母と婚姻関係にあったブランデンブルク辺境伯領とプファルツ＝ノイブルク公国の2つでした。当初、両国は共同で連合公国を統治しようとしましたが、次第に対立を深めていきます。一方、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世は、公国を併合しようと画策しました。

第一次戦争（1609年 - 1610年）

皇帝の動きに対抗するため、ブランデンブルクとプファルツ＝ノイブルクは連合して公国に進駐しました。これに対し、皇帝はハプスブルク家のレオポルトを派遣し、両陣営は武力衝突へと発展します。プロテスタント同盟にはフランスやネーデルラントが、カトリック連盟にはスペインが加担し、国際的な様相を呈しました。

アーヘンの政変

1611年、アーヘンでプロテスタントの信仰が広まると、カトリックの市参事会はこれを取り締まろうとしました。これに対し、プロテスタント市民が反乱を起こし、カトリックの参事会員を追放し、教会やイエズス会の学校を襲撃しました。これにより、プロテスタントが市政を掌握しましたが、皇帝ルドルフ2世はアーヘンをカトリックに戻すよう命じました。

第二次戦争（1614年）

ルドルフ2世の死後、皇帝マティアスはザクセン選帝侯の連合公国領継承権を承認したため、争いが再発しました。プファルツ＝ノイブルクのヨアヒム・エルンストがカトリックに、ブランデンブルクのヴォルフガング・ヴィルヘルムがカルヴァン派に改宗したことで、両者の同盟関係は解消され、対立が激化しました。ネーデルラントとスペインがそれぞれブランデンブルクとプファルツ＝ノイブルクを支援し、再び国際紛争へと発展しました。

クサンテン条約とその後

1614年、フランスとイングランドの仲介によりクサンテン条約が締結され、ユーリヒ＝クレーフェ継承戦争は終結しました。この条約により、ユーリヒ＝ベルクはプファルツ＝ノイブルクが、クレーフェ＝マルクはブランデンブルクがそれぞれ獲得することになりました。しかし、この条約は、両者の対立の根本的な解決には至らず、その後の三十年戦争の遠因の一つとなりました。また、スペインはライン川沿いの拠点を獲得し、北西ヨーロッパにおける影響力を拡大しました。

ユーリヒ＝クレーフェ継承戦争は、宗教改革後のヨーロッパにおける宗教的、政治的な対立が複雑に絡み合った結果として起こった紛争であり、その後のヨーロッパの歴史に大きな影響を与えました。

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