ユール

ユール：古代ゲルマンの冬至祭とクリスマスの起源

ユール(Jul/Yule)は、古代ヨーロッパ、特にゲルマン民族やヴァイキングの間で冬至の頃に執り行われていた祭りの名称です。現在では、北欧諸国ではクリスマスを指す言葉として広く用いられており、英語でも過去形として「ユールタイド(Yuletide)」という言葉が残っています。しかし、ユールは単なるクリスマスではなく、キリスト教以前から続く、独自の伝統と文化が色濃く残る祭典なのです。

ユールの起源と神々への供物

ユールは、10世紀の文献にも登場する古くから続く祭りで、冬至、太陽の力が再び強まり、再生の兆しが見え始める日を新年として祝っていました。豊穣と平和を司るヴァン神族ではなく、オーディン神をはじめとする神々に、ビールや猪、豚といった供物が捧げられました。特に猪は豊穣の象徴であるフレイ神の象徴でもあり、重要な供物とされていました。この伝統は現在でも北欧やドイツのクリスマス料理に豚肉料理が中心となっていることからも伺えます。スウェーデンの「ユール・シンカ」、ノルウェーの「ユールグリス」など、国ごとに独特の豚肉料理がクリスマスの食卓を彩ります。他に、牛乳粥や米粥なども食べられています。これらの料理を並べたテーブルは「ユール・ボード」と呼ばれ、この日に現れるとされる霊たちへの特別な供物として用意されました。

ユール・ボードと冬の精霊たち

冬至は、季節や農作業の変わり目であると同時に、死者の霊、悪魔、魔女などが現れると信じられていました。夜には「ユールレイエン」(ワイルドハント)と呼ばれる、死者の魂や精霊の群れが駆け巡る現象が起きると言われ、1月6日の公現節までユール・ボードを用意しておくことが、縁起が良いとされていました。ワイルドハントは9世紀から14世紀にかけて広く信じられており、特にクリスマスの12日間（公現節まで）にその勢いが増すと考えられていました。ノルウェーでは「ガンドライド」とも呼ばれ、亡くなった人々の魂が空を駆け抜け、その土地を豊かにすると信じられていました。

収穫祭と太陽の再生

秋に行われる収穫祭は、来る冬の到来を暗示していました。北欧の長くて厳しい冬を乗り越えるため、人々は収穫物を貯蔵し、冬至の頃に太陽の再生を祈る祭りを執り行いました。中世には何日も続く宴会が開かれ、大きな火が焚かれ、生贄が捧げられました。たき火は暗闇や寒さと戦う太陽の象徴であり、人々は火の周りで歌い、食べ、飲み交わし、亡くなった人々の霊も宴に加わると信じられていました。イギリスでは、12月と1月を指す「ジウリ(Giuli)」という言葉があり、これがユールの語源になったという説もあります。

聖ルチア祭

ユールは12月13日の聖ルチア祭から始まります。この祭では、家の末娘が白いドレスに赤い帯、そしてロウソクの冠をつけ、「サンタ・ルチア」の歌を歌いながら家族にケーキを贈ります。これは新聞社の美人コンテストに端を発し、今ではノーベル賞授賞式にも取り入れられている伝統です。「ルチアカッテル」というお菓子や「グロッグ」(クリスマスには「ユールグロッグ」)と呼ばれる飲み物も振る舞われます。ルチアは「光」を意味する言葉で、女神フレイヤに由来すると言われています。

ユールログと火の魔力

ユールログ(Yule Log)は、クリスマスイブに炉で焚かれる大きな薪のことです。中世ドイツが発祥とされ、本来はたき火の目的で伐採されました。森から家まで運ぶ際には、リボンで飾られたり、最年少の者が薪の上に座ったりする習慣がありました。薪には魔力があると信じられ、太陽の輝きを助け、火の影に頭が入らなければその年は死ぬ、灰は病気や雷に効く、などと言われました。「十二夜」まで燃やし続けることが重要で、途中で消えると不吉なことが起こるとされていました。現在では、この伝統は廃れてしまいましたが、チョコレートケーキの「ブッシュ・ド・ノエル」としてその面影を残しています。

ユールゴートとサンタクロース

ユールゴート(Yule Goat)は、北欧神話の神トールの車を引く2頭のヤギに由来すると言われています。元々は吉凶をもたらす存在で、日本のナマハゲのような存在でした。後に、プレゼントを運ぶ存在へと変化し、サンタクロースのそりを引く役割を担うようになりました。ワラで作ったヤギの飾りや、巨大なユールゴートの飾り付けは、北欧のクリスマスの風物詩となっています。フィンランドでは子供を脅かす存在として描かれることもあり、男性が扮して子供を脅かす習慣もあります。スウェーデンでは「ユールボック」、ノルウェーでは「ユールブック」と呼ばれ、アメリカのノルウェー系アメリカ人の間ではクリスマス仮装大会の名前にもなっています。

北欧のサンタクロース

北欧のスウェーデン'>[サンタクロース]]は、「ユールトムテ]」「ユールニッセ([[デンマーク)」などと呼ばれ、ノームの姿をしています。煙突から入るのではなく、直接子供たちにプレゼントを届けてくれます。フィンランドの「ヨウルプッキ」は玄関をノックして良い子かどうかを確認すると言われています。「ユールラッズ(アイスランド)」は「悪いサンタクロース」として知られています。

ミトラ教との関連性

キリスト教のライバル宗教であったミトラ教は、冬至を祝う宗教でした。キリスト教が12月25日をクリスマスとして祝うようになったのは、ミトラ教の影響を受けたという説があります。また、冬至祭の伝統を持つケルト民族やゲルマン民族を取り込む戦略もあったと考えられています。

ユールの時期と多様な影響

ユールの正確な時期は特定しづらいですが、13世紀には1[[1月14日]]から12月13日の間に行われていたとされています。古代ローマの冬至祭「サートゥルナーリア祭」に起源を持つという説もあります。ユールは、多様な文化や宗教の影響を受けながら、独自の進化を遂げてきた、奥深い伝統行事と言えるでしょう。 新異教主義のウイッカの信者もユールを祝います。

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