ユーロジェット EJ200

ユーロジェット EJ200 エンジン

ユーロジェット EJ200は、主にユーロファイター タイフーン戦闘機に搭載される高性能な軍用ターボファンエンジンです。このエンジンは、英国のロールス・ロイス社が1980年代に開発したXG-40技術実証機の成果を基に開発されました。製造は、欧州各国の航空宇宙企業が出資する合弁事業体、ユーロジェット・ターボ（EUROJET Turbo GmbH）によって分担されています。

開発の経緯

EJ200の開発は、その源流を1984年にロールス・ロイス社が開始したXG-40技術実証プログラムに遡ります。この開発プロジェクトの費用は、英国政府がその大部分（85%）を負担し、残りをロールス・ロイス社が負担しました。

同時期の1985年8月2日、イタリア、西ドイツ、イギリスの三国は、後のユーロファイター計画へと繋がる戦闘機共同開発に合意しました。当初参加が検討されていたフランスがこの計画から離脱したのは、自国の航空機産業を保護する目的と、フランスのスネクマ社が独自にラファール戦闘機用のM88エンジンを開発していたことが主な理由とされています。

ユーロジェット・ターボ連合は、XG-40で培われた技術を基にしたエンジンの開発計画を調整・監督するために、1986年に設立されました。

主要な技術的特徴

XG-40とEJ200は多くの設計要素を共有しています。EJ200は、高い圧縮比を持つ3段式の低圧ファンと、5段構成で低縦横比のブレードを採用し、アクティブ・チップ・クリアランス・コントロール機能を備えた高圧圧縮機から構成されています。燃焼器には先進的な冷却機構と耐熱性の高い素材が使用されており、タービン部はPMディスクと低密度の単結晶ブレードを用いた単段式の高圧タービンと低圧タービンを採用しています。

推力はアフターバーナーを使用することで大幅に増強されます。ノズルは可変面積設計となっており、収束・発散が可能です。また、給気口には段階可変式案内翼を備えており、これは先進的な軍用ターボファンエンジンにおいては一般的ではない特徴です。

EJ200は、軍用機用エンジンとして優れた推力あたりの燃料消費率を誇ります。

派生型と改良計画

EJ200にはいくつかの型式が存在します。

EJ200 MK 100: エンジン監視ユニット（EMU）とデジタルエンジンコントロールユニット（DECU）を搭載しない初期型で、ユーロファイター タイフーンの初期生産型（トランシェ1）に搭載されました。
EJ200 MK 101: EMUとDECUを搭載した標準型で、トランシェ2以降の機体に搭載されています。

さらに性能を向上させた派生型の開発も計画されています。

EJ230: 原型よりも約2割の出力向上を目指しており、ドライ推力で72kN（約16,200lbf）、アフターバーナー使用時には103kN（約23,100lbf）を目標としています。これを実現するためにファン設計が変更され、将来的には推力偏向機能との統合も視野に入れています。
EJ260: 原型から約3割の出力向上を計画しており、ドライ推力で78kN（約17,500lbf）、アフターバーナー使用時に120kN（約27,000lbf）を目指しています。

搭載機とその他の適用事例

EJ200の主要な搭載機はユーロファイター タイフーンです。しかし、その高性能から他のプロジェクトでの採用や検討も行われています。

トルコ空軍の次期戦闘機 TFX: 2015年には、トルコのアセルサン社とユーロジェットの間で協力覚書が締結され、EJ200プログラムの枠組みでエンジンの制御システムや保守監視システムのソフトウェア開発において協力が進められています。
ブラッドハウンドSSC: 自動車による地上速度記録への挑戦プロジェクトで使用される超音速自動車に、補助的な推力源としてEJ200エンジンが搭載されています。90kNの推力を発生し、時速1000マイル（約1609km）達成を目指すこの車両の動力の一部を担っています。

搭載検討に終わった事例

EJ200は、いくつかの航空機プロジェクトにおいて搭載が検討されましたが、様々な理由により採用には至りませんでした。

インドのテジャス: インドが開発する軽戦闘機テジャス向けに、国産カヴェリエンジン開発までの繋ぎとして、推力偏向機能付きのEJ200が提案されました。しかし、米国のGE F414エンジンとの競合に際し、提示価格の面で敗れたとされています。
トーネード IDS: 1992年に既存のトーネード戦闘機への換装エンジンとして検討が行われましたが、実現には至りませんでした。
サーブ 39 グリペン: スウェーデンのグリペンNG向けに、EJ200の改良型であるEJ230の推力偏向タイプが提案されましたが、こちらもGE F414の派生型に敗れています。
EADS マコ: EADS（現エアバス）が計画した欧州向け練習機/軽攻撃機であるマコに対しても、非アフターバーナー型（推力75kN）やアフターバーナー付き型（推力90kN）が提案されましたが、米国のF414の派生型に敗れ、さらにマコ計画自体も最終的に頓挫しました。
AMX: イタリアとブラジルが共同開発した攻撃機AMXの代替エンジンとして、非アフターバーナー型が検討されたことがあります。
韓国のKF-21: 2015年以降、開発が進められている韓国の次期戦闘機KFX（現在のKF-21）のエンジン選定においても、米国のF414-GE-400に対抗して提案されましたが、採用には至りませんでした。

仕様諸元（EJ200 MK 100/101）

型式: 2軸ターボファン
全長: 4.0 m
直径: 0.737 m
重量: 989 kg
圧縮機: 低圧3段、高圧5段
バイパス比: 0.40:1
推力:
ドライ: 60 kN (13,500 lbf)
アフターバーナー使用時: 89 kN (20,000 lbf)
圧縮比: 26:1
タービン入り口温度: 1,800 K
推力あたりの燃料消費率:
ドライ出力時: 21-23 g/kNs
アフターバーナー使用時: 47-49 g/kNs
* 推力/重量比: 9.175:1

EJ200は、ユーロファイター タイフーンの高い飛行性能を支える基幹コンポーネントであり、欧州が共同で開発・製造した代表的な高性能軍用エンジンと言えます。

もう一度検索