ヨシフ・イヴァノヴィチ

ヨシフ・イヴァノヴィチ：ドナウの調べを奏でた作曲家

ヨシフ・イヴァノヴィチ（Iosif Ivanovici, 1845年 - 1902年）は、19世紀後半のルーマニアを代表する作曲家、指揮者です。彼は、ガラツィとブクレシュティの軍楽隊長を務めました。350曲もの作品を作曲しましたが、今日ではワルツ『ドナウ川のさざなみ』Valurile Dunării）が最も有名です。

生涯と音楽

イヴァノヴィチはティミショアラで生まれました。作曲家として、ワルツ、ファンファーレ、行進曲、民謡に基づく作品など、幅広いジャンルの作品を手がけました。1889年のパリ万博では作曲賞を受賞するなど、国際的にも評価されました。しかし、彼の作品の多くは残念ながら忘れ去られており、現在では『ドナウ川のさざなみ』のみが広く演奏されています。

『ドナウ川のさざなみ』

『ドナウ川のさざなみ』は、1880年に作曲されました。哀愁を帯びた旋律と見事なオーケストレーションが特徴で、東欧のワルツ作品の中でも特に傑作として知られています。同時代に活躍したヨハン・シュトラウス2世の『美しく青きドナウ』とは対照的に、感傷的でロマンチックな雰囲気を持ち合わせています。

日本での人気

『ドナウ川のさざなみ』は、日本でも非常に人気があります。その旋律が日本人の心に深く響くためか、「月は霞む春の夜」という歌詞がつけられて歌われるほどです。また、かつては軍楽隊のレパートリーとしても親しまれていました。

アメリカでの人気

アメリカでも人気があり、歌詞がつけられて『アニヴァーサリー・ソング』として広く知られています。

映画音楽としての魅力

『ドナウ川のさざなみ』は、その美しい旋律から多くの映画で使用されています。『野良犬』、『ジョルスン物語』、『パパは出張中!』、『あゝ野麦峠』など、様々な作品でその音楽を聴くことができます。

作曲背景

イヴァノヴィチがこの曲を作曲した時期は、ルーマニアが独立を認められた時期と重なります。彼の音楽には、長調と短調を組み合わせることで独特の情感を生み出す傾向があったと言われています。

家族と作品

イヴァノヴィチの曾孫であるアンドレイ・イヴァノヴィチは、ピアニストとして活躍しています。ヨシフ・イヴァノヴィチの主要作品には、以下のようなものがあります。

Op. 51 ワルツ Inima Română (Romania's Heart)
Op. 122 ワルツ (Moonglow Waltz)
Op. 123 ポルカ Poker
Op. 124 ワルツ (In the Courts of the Princess)
Op. 127 ワルツ Regina balului (King of the Ball)
Op. 128 ワルツ (Golden Hours Waltz) 1893年
Op. 129 マーチ (Erzherzog Carl Ludwig)
Op. 130 ポルカ・マズルカ Céline
Op. 134 ワルツ Natalia (Nathalie)
Op. 136 ワルツ (Messenger of Love)
Op. 137 ポルカ De-a Gajurile (Beim Pfänderspiel)
Op. 149 ワルツ Floricică Fermecată (Blüthenzauber)
Op. 155 ワルツ (Love for Love Waltz)
Op. 157 ワルツ Viziunea Orientului (Vision of the East)
ワルツ《ドナウ川のさざなみ》 Valurile Dunării (1880年)
ワルツ《カルメン・シルヴァ》Carmen Sylva (1892年)

その他多数

音楽への想い

作家の鮎川哲也は、ルーマニアのレコード会社に対し、イヴァノヴィチの全集を製作するよう要望する手紙を送ったことを明かしています。これは、彼の音楽がルーマニアを代表するものであるという認識の表れでしょう。

ヨシフ・イヴァノヴィチの音楽は、時代を超えて人々の心に響き続けています。特に『ドナウ川のさざなみ』は、その美しい旋律とロマンチックな雰囲気で、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。

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