ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ (グエルチーノ)

グエルチーノの傑作『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』

17世紀イタリアのバロック絵画の巨匠、グエルチーノが1620年頃に描いた油彩作品『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』は、旧約聖書の「創世記」に基づいた物語を描いています。この作品は、画家がローマへ赴く前に制作され、現在、アイルランド国立美術館に所蔵されています。

聖書の物語と画家の解釈

この絵画の主題は、「創世記」48章14節に記された場面です。ヤコブは、ヨセフの二人の息子、マナセとエフライムを祝福する際、本来長男であるマナセに与えられるべき右手を次男のエフライムに置きました。これは、エフライムがマナセよりも偉大な人物になるという予言を示唆しています。画面右側には、父ヤコブの意図に驚き、抗議するヨセフが描かれています。

グエルチーノは、この物語を力強い構図と人物の仕草や表情を通して、観る者に緊張感と感情を伝えています。暗色を基調とした色彩、光と影の劇的な対比、そして逞しい人物像が、主題をより一層際立たせています。

作品の変遷

この作品のための最初期のスケッチは、1615年から1625年の間に描かれたペン画の習作としてシカゴ美術館に所蔵されています。当初、この絵画はグエルチーノの常連顧客であったフェラーラのヤコポ・セッラ枢機卿によって委嘱されましたが、1623年に枢機卿が亡くなった後、同じくフェラーラの枢機卿であるジュリオ・サッケッティの手に渡りました。

1629年には、スペインの巨匠ディエゴ・ベラスケスがこの作品を鑑賞したという記録が残っています。1640年代には、サッケッティ枢機卿が作品をスペイン大使フアン・アルフォンソ・エンリケス・デ・カブレーラに贈呈。その後、カブレーラの息子によってマドリードの教会に寄贈されました。1803年頃には、マヌエル・デ・ゴドイによって購入されましたが、彼の失脚と亡命後、再び売却されました。

1808年以前に制作された複製が、現在ナショナル・トラストによってサフォークのイクワース・ハウスに所蔵されています。オリジナル作品は、1843年までに第2代ノースウィック男爵ジョン・ラッシュアウトのコレクションに入りましたが、1859年の彼の死後、競売にかけられました。

その後、70年ほど行方不明となっていましたが、1932年に美術史家ヘルマン・フォスによってパリで発見され、2年後、美術史家デニス・マホンによって購入されました。マホンは、1997年に作品をアイルランド国立美術館に長期貸与し、2008年に同美術館へ寄贈しました。

2016年から2018年にかけて、大規模な修復のため、J・ポール・ゲティ美術館に送られました。この修復によって、作品は本来の輝きを取り戻し、現在も多くの人々を魅了しています。

美術史における意義

『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』は、グエルチーノの初期の傑作として、その後の画家の活動に大きな影響を与えました。また、聖書の物語をドラマチックに描いた作品として、バロック絵画の重要な一例とされています。この作品は、その複雑な歴史と数奇な運命を経て、現在ではアイルランド国立美術館の貴重なコレクションとして、多くの人々に鑑賞されています。

参考文献

アイルランド国立美術館公式サイト (Press release 9/3/2018)、グエルチーノ『ヨセフの息子たちを祝福するヤコブ』 (英語)

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