ヨハネス1世 (ローマ教皇)

ヨハネス1世は、5世紀末から6世紀初頭にかけて活躍したローマ教皇であり、カトリック教会と正教会で聖人として崇敬されています。彼の生涯は、西ローマ帝国の滅亡と東ゴート王国の成立、そして東ローマ帝国との複雑な関係が絡み合う激動の時代を背景に展開されました。

ヨハネス1世は、470年頃に生まれたと推測されています。523年に教皇に選出される以前の彼の人生については、詳しい記録は残されていません。当時のローマは、西ローマ帝国の滅亡後、東ゴート族の王テオドリックの支配下にありました。テオドリックはアリウス派のキリスト教徒であり、カトリック教会とは異なる信仰を持っていました。

しかし、東ローマ帝国のユスティヌス1世が、アリウス派への弾圧政策を始めたため、状況は一変します。テオドリックは、カトリック教会との和解を図るため、助祭であったヨハネスを教皇に任命し、使節団と共に東ローマ帝国に派遣することを決定しました。

526年、ヨハネス1世は教皇として初めて東ローマ帝国を訪問しました。コンスタンティノープルでは、皇帝ユスティヌス1世から歓待を受けたものの、交渉は難航し、結局、東ローマ帝国は妥協を拒否しました。使節団は、何の成果も得られずにローマへと帰還することになります。

交渉の失敗に激怒したテオドリックは、ヨハネス1世を捕らえ、投獄しました。当時、高齢であったヨハネス1世は、長旅の疲労と老衰が重なり、投獄中に獄死しました。526年5月18日のことでした。彼の死については、様々な伝聞が残されており、後世の芸術作品にも影響を与えました。

例えば、14世紀に描かれたラヴェンナのサンタ・マリア・イン・ポルト・フォーリ教会のフレスコ画では、テオドリックが教皇を死に追い込んだ様子が描かれています。さらに、15世紀には、ヨハネス1世の「処刑」を直接的に描いた細密画も制作されています。これらの作品は、ヨハネス1世の悲劇的な最期を後世に伝えています。

ヨハネス1世の生涯は、当時の政治と宗教の複雑な関係を示すだけでなく、教皇という立場の象徴性、そして、異なる信仰を持つ勢力間の対立という、歴史における普遍的なテーマを浮き彫りにしています。彼の人生は、激動の時代に翻弄された一人の聖職者の悲劇として、後世に語り継がれています。

参考文献
* P.G.マックスウェル・スチュアート著、高橋正男監修『ローマ教皇歴代誌』創元社、1999年12月。ISBN 4-422-21513-2

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