東ゴート族

東ゴート族：ゲルマン民族の興亡史

東ゴート族は、古代ゲルマン民族の一派として知られています。紀元150年頃には黒海北岸に定住しており、220年頃にはドニプロ川を境に二つのグループに分裂しました。ドニプロ川東側に居住したグループは、周辺の砂地の平原から「アウストロゴティ（Austrogoti）」と呼ばれるようになりました。この名称は後に「オストゴート（Ostgote）」、そして日本語で「東ゴート」へと変化していったのです。一方、ドナウ川中流域に定住したグループは西ゴート族と呼ばれました。

4世紀に入ると、東ゴート族は西へと移動してきたフン族と接触を始めます。372年にはフン族の攻撃を受け、375年にはついにフン族に征服されてしまいます。生き残った東ゴート族の一部はフン族に従属し、他の一部はヴァンダル族と共にローマ帝国の保護を求めパンノニアへと移住しました。しかし、ローマ帝国においては屈辱的な扱いを受けることとなります。

5世紀末、フン族が衰退すると、東ゴート族の王テオドリックが部族を率いてイタリアへと進出しました。493年、テオドリックはイタリアに東ゴート王国を建国します。東ゴート王国はその後、勢力を拡大し、東ローマ帝国と対立、ローマを占領するなどイタリアの大半を制圧下に置きました。しかし、東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌス1世が派遣した将軍ベリサリウス率いる軍勢に敗北、その後、東ローマ帝国のナルセスによる攻撃を受け、東ゴート王国は滅亡しました。

東ゴート族の歴史は、黒海北岸での定住から始まり、フン族との抗争、ローマ帝国との複雑な関係、そしてイタリアでの王国建設と滅亡という、幾多のドラマチックな出来事に彩られています。彼らは、ゲルマン民族大移動の重要な担い手として、ヨーロッパの歴史に大きな足跡を残しました。その興亡は、民族移動の激しさ、ローマ帝国の後期の混乱、そして強大な帝国の衰退と新たな勢力の台頭を物語るものです。東ゴート王国は短命に終わりましたが、その存在は、ヨーロッパの歴史を理解する上で欠かせない要素となっています。彼らの文化や社会構造、そして軍事戦略などは、歴史家たちによって今もなお研究され続けています。

東ゴート族の歴史を理解することは、古代ヨーロッパの政治的・軍事的な状況、民族間の複雑な関係性、そして帝国興亡のダイナミズムを理解することに繋がります。彼らの物語は、単なる歴史の事実としてだけでなく、現代社会においても様々な示唆を与えてくれるでしょう。彼らの経験から、私たちは民族間の紛争や帝国の興亡といったテーマについて、より深く考える機会を得ることができるのです。また、東ゴート族とローマ帝国、フン族といった他の勢力との関わりを通して、古代ヨーロッパにおける勢力均衡や国際関係についても考察することができます。彼らの歴史は、過去と現在を繋ぐ重要な架け橋として、私たちに貴重な教訓を与えてくれるでしょう。

参考文献

シュライバー, ヘルマン『ゴート族 - ゲルマン民族大移動の原点』岡淳、永井潤子、中田健一訳、佑学社、1979年12月。
松谷健二『東ゴート興亡史 - 東西ローマのはざまにて』中央公論新社〈中公文庫BIBLIO B74〉、2003年4月（原著1994年）。
* 松本宣郎「第3章 ローマ帝政下のイタリア」『イタリア史』北原敦編、山川出版社〈新版世界各国史 15〉、2008年8月。

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