ヨハネス16世 (対立教皇)

ヨハネス16世：10世紀末ローマの影と光

ヨハネス16世（？ - 1001年頃または1013年）は、997年から998年までのわずか1年間、対立教皇としてローマ教皇の座に就いた人物です。彼の生涯は、権力争いと陰謀、そして残酷な報復に彩られています。本名はヨハネス・フィラガトス（Johannes Philagathos）で、歴史上の記録によってはピラガート、フィラガットとも表記されています。

彼は南イタリア、カラブリア地方ロッサーノ出身のギリシア系修道士でした。神聖ローマ帝国皇帝オットー2世の妃テオファヌ（東ローマ皇帝ヨハネス1世ツィミスケスの姪とされる）の側近として仕え、980年から982年にかけては帝国のイタリアにおける文書局長を務めました。オットー2世の幼子（後のオットー3世）の養育係も務め、その信頼を得ていました。オットー2世の死後もテオファヌに仕え、988年にはピアチェンツァ司教に任命され、さらに同司教区を大司教区に昇格させました。その後、ノナントゥラ修道院長を務めたのち、995年末にはオットー3世の妃選びのためにコンスタンティノポリスへ派遣されています。

この頃、ローマでは貴族クレッシェンティウス2世が反乱を起こしていました。オットー3世はこれを鎮圧し、自らの血縁であるブルーノをグレゴリウス5世として教皇に即位させます（996年）。しかし、オットー3世がローマを離れると、クレッシェンティウス2世は東ローマ皇帝バシレイオス2世の支援を受けて再び反乱を起こし、グレゴリウス5世を追放しました。この混乱に乗じて、コンスタンティノポリスから帰国したヨハネス・フィラガトスが、997年5月にヨハネス16世として教皇に就任します。彼の親友であるロッサーノの聖ニルスは、この行為を止めようと彼に訴えかけましたが、時すでに遅しでした。

グレゴリウス5世は、神聖ローマ皇帝領のパヴィアで教会会議を開き、ヨハネス16世を破門し、自らの地位を正当化しようとしました。さらに、ヨハネス16世が司教を務めていたピアチェンツァをラヴェンナ大司教管区下の司教座教会に戻しています。オットー3世はイタリアへ進軍し、998年2月にローマを制圧、クレッシェンティウス2世の反乱を鎮圧しました。ヨハネス16世はローマから逃亡しますが捕らえられ、鼻と耳を削がれ、舌を引き抜かれ、手の指を折られ、目を潰されるという凄惨な扱いを受けました。その後、ラテラノ宮殿で開催された教会会議で退位させられ、ローマ市内の修道院に投獄されます。聖ニルスの尽力により命は助かりましたが、その後の彼の運命は様々伝えられています。聖ニルスの『聖者伝』には、1001年頃に修道院で亡くなったと記されていますが、『フルダ年代記』には1013年4月2日にドイツのフルダ修道院で没したとの記述があります。

ヨハネス16世は自ら「16世」と名乗りましたが、正統な教皇ではありませんでした。しかし、彼の後任のヨハネス17世（在位：1003年）は、この数え方に影響を与えたと思われます。歴史家たちは、伝説上の教皇ヨハネスの存在や、教皇名号の混乱を背景に、ヨハネス16世を17世、あるいは両方の番号で呼んでいます。この混乱は対立教皇ボニファティウス7世の存在とも関係があるとされています。

ヨハネス16世の生涯は、中世ヨーロッパにおける宗教的・政治的権力闘争の激しさを物語る、波乱に満ちたものでした。彼の悲劇的な最期は、当時のローマにおける権力争いの残酷さを如実に示しています。そして、彼の教皇名号をめぐる混乱は、歴史の複雑さと解釈の難しさを私たちに教えてくれます。

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