ヨハネ文書

ヨハネ文書の概要

ヨハネ文書（ヨハネぶんしょ）は、新約聖書の中で特に重要な役割を果たす一連の文書であり、『ヨハネによる福音書』、3通の手紙（『ヨハネの手紙一』、『ヨハネの手紙二』、『ヨハネの手紙三』）、そして『ヨハネの黙示録』が含まれています。しかし、現代の研究においては、一般的に『黙示録』は除外され、前述の4つの文書がヨハネ文書として認識されています。これは、『黙示録』の表現が他の文書とは異質であり、思想的にも大きな違いがあると考えられているためです。

ヨハネ福音書の著者について

『ヨハネによる福音書』の著者には謎が多く、新しい解釈が数多く提唱されています。リベラルな視点からは、この福音書は「イエスの愛する弟子」とされる匿名の著者によって書かれたとされています。一方で、近代的な解釈では、キリスト教のある集団、いわゆる「ヨハネ教団」によって編纂されたという主張が支持されています。この説は、ヨハネ教団が使徒ヨハネを重視し、彼がその指導者であった可能性が高い点に重きを置いています。

伝統的な立場では、使徒ヨハネが単独で執筆したとされていますが、成立時期については議論があります。多くの保守的な学者は、約85年ごろに成立したと考えていますが、近代の研究者らは、最終的な完成が2世紀初頭であり、著者も複数いるという見解を示しています。この見解では、最初の版が50年代に成立し、完全な形に仕上げられたのが100年ごろであるとされています。特に、『ヨハネ福音書』の21章は、他の部分と異なる筆者によって書かれた可能性があると指摘されています。

成立時期と文体の研究

「ヨハネ福音書」が与えられた背景には、エルサレム神殿の崩壊後のユダヤ人キリスト教徒たちと新しい信仰を掲げるパウロ派との決裂があります。福音書は、信仰の伝統を保持しようとした人々からの視点が色濃く反映されていると考えられます。このような背景において、F.C.バウアーのような学者は、成立時期を紀元160年以降に推定しており、最も遅い見解にあたります。

ヨハネ文書は、これまでの文書の中で最後に成立したとされており、その成立時期の特定は、他の福音書全体の理解にも影響を及ぼします。また、レイモンド・ブラウンによると、ヨハネ文書には三層の編集が見られ、最初の層はイエスを知る人々によるものであると言われています。

一方で、文体的な均一性が強いことから、段階的な編集を想定する見解には反論も存在します。2世紀から4世紀にかけては、使徒ヨハネにこの文書が由来しているとの証言が多い一方で、「ヨハネ教団」と呼ばれる集団に関する証言は存在しないため、この説に対して疑問が呈されています。

ヨハネ文書の発見と影響

1920年にエジプトで発見されたパピルス断片（P52）は、『ヨハネ福音書』の18章の一部を含んでおり、これが新約聖書内で最古の断片である可能性があります。しかし、その年代については議論が続いており、特にその形態（巻物かコデックスか）も成立時期の特定に貢献する要因とされています。

著者に関する考察

『ヨハネ文書』において著者の名前は記されていません。伝統的には、これらの文書はすべて使徒ヨハネに归されてきましたが、実際には彼が書いたわけではないとする見解もあります。特に、4世紀の神学者たちは、異なるヨハネ（長老ヨハネ）が手紙を執筆したとの意見を持っていますが、D. A. Carsonは文体の類似性から著者は同一である可能性が高いと指摘しています。

黙示録に関しては、他の文書とは明確な違いがあり、そのために筆者が異なる可能性が議論されています。高等批評の影響から、現代の聖書学者たちは、いずれのヨハネ文書も使徒ヨハネによるものではないと考えていることが多いですが、依然として議論は続いています。様々な解釈が行われる中、これらの文書はキリスト教の初期における信仰や神学の形成に大きく寄与したとされています。

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