聖書学

聖書学とは

聖書学は、聖書を研究対象とする学問分野です。文献学的な方法や、言語学、考古学、地理学といった人文科学的な手法を用いて、聖書の本文を詳細に分析し、その起源や歴史的背景を明らかにしようとします。キリスト教の観点からは、聖書が成立した初期のキリスト教の姿を理解することを目指します。

聖書学は大きく分けて旧約聖書学と新約聖書学に分かれます。旧約聖書は古代イスラエルの歴史や宗教観を反映しており、新約聖書はイエス・キリストの生涯と教え、そして初期キリスト教の成立過程を記録しています。聖書学の研究は、これらの聖書の歴史的、文化的背景を理解する上で不可欠です。

聖書学における二つの主要な立場

聖書学には、リベラル（批判的）な立場と、聖書信仰に基づく保守的な立場という二つの主要なアプローチが存在します。これらの立場は、聖書に対する基本的な前提が異なり、研究の結論にも大きな違いをもたらします。

批判的聖書学

批判的聖書学は、聖書を歴史的な文書として扱い、その成立過程や著者、編集過程などを厳密に分析します。このアプローチでは、聖書の記述が必ずしも歴史的事実をそのまま反映しているとは考えず、複数の資料や伝承、著者の神学的な意図などが複合的に影響していると捉えます。

例えば、新約聖書の研究では、イエス自身の教えから始まり、それが口承で伝えられ、福音書記者によって文章化され、最終的に正典として選ばれるという複雑な過程を経ていると分析します。また、福音書や手紙が書かれた時代や地域の違い、著者の神学的な立場によって、それぞれの記述に差異や矛盾が見られることを指摘します。

具体的な例として、福音書は、マルコが最初に書いたとされ、マタイとルカはそれらを参考にしながら、独自の神学的解釈を加えて記述したとされます。ヨハネによる福音書は、他の3つの福音書とは異質な内容を持ち、より後の時代に書かれたとされています。パウロの手紙もまた、時代や宛先によって異なる視点や強調点を示しています。このように、新約聖書は多様な信仰の視点を含んでおり、単純に「新約聖書はこう言っている」と総括することはできないとされます。

批判的聖書学は、18世紀のドイツ人神学者J.P.ガーブラーによって基礎が築かれました。

保守的な聖書学

一方、聖書信仰の立場は、聖書は神の霊感によって書かれたものであり、誤りがないと信じます。リベラルな立場が聖書の中に矛盾と見なす箇所も、保守的な立場では「聖書の現象」として捉え、解釈を通してその調和を追求します。聖書を神の啓示の書として、その字義通りの解釈を重視する傾向があります。

主な聖書学者

批判的な聖書学者としては、ユリウス・ヴェルハウゼンや田川建三などが知られています。保守的な聖書学者としては、ジョン・グレッサム・メイチェン、F.F.ブルース、尾山令仁、内田和彦などが挙げられます。

聖書学の研究と今後の課題

聖書学は、聖書の歴史的、文化的背景を明らかにするだけでなく、現代のキリスト教信仰にも大きな影響を与えています。批判的な研究は、聖書の解釈に多様な視点をもたらし、保守的な研究は聖書の霊的な意味を深める上で貢献しています。

今後の課題としては、より精緻な文献学的分析、考古学的発見の解釈、聖書が書かれた当時の社会や文化の理解を深めることが求められます。また、現代の倫理や社会問題に対する聖書の解釈についても、より深い考察が必要です。

参考文献

『新聖書辞典』いのちのことば社
『岡田稔著作集』岡田稔 いのちのことば社
『聖書の権威』尾山令仁 日本プロテスタント聖書信仰同盟
『書物としての新約聖書』田川建三 勁草書房

関連項目

聖書学者
聖書学者の一覧
聖書学校
福音書
史的イエス
死海文書
ナグ・ハマディ写本（文書）
文書仮説
Q資料

外部リンク

木幡藤子. “最近の五書研究を整理してみると” (PDF). 広島大学)

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