ヨハンネス2世 (エチオピア皇帝)

ヨハンネス2世（Yohannes II、ゲエズ語: ዮሓንስ）は、1699年に生まれ、1769年10月18日に没したエチオピア帝国ソロモン朝の皇帝である。父はイヤス1世で、テクレ・ハイマノット1世、ダウィト3世、ベカファ帝といった皇帝たちの兄弟にあたる。彼の在位は、1769年5月7日から同年10月18日までのわずか約5ヶ月という極めて短い期間であった。この時代は、後に「ラス（諸侯）の時代」と呼ばれるエチオピア史上特異な群雄割拠期に位置する。

先代皇帝イヨアス1世が1769年に暗殺されるという激動を経て、新たな皇帝の擁立が喫緊の課題となった。この混乱に乗じて権勢を振るったのが、エチオピア北部ティグレ地方を拠点とする有力なラス（諸侯）、ミカエル・セフルであった。彼は、ソロモン朝の皇族が代々、政争から遠ざける目的で人質として軟禁されていた山上の要塞、ウェフニーから、暗殺されたイヨアス1世の伯父にあたるヨハンネスを選び出し、皇帝として擁立することを画策した。

この決定に対し、宮廷の評議員の中からは異論が唱えられた。その理由は、かつてヨハンネスがウェフニーからの脱走を試みた際に、罰として片手を切断されるという重い刑を受けていたことだった。評議員は、そのような身体的特徴を持つ人物が皇帝の威厳を保てるのか、あるいは皇帝としての職務を適切に遂行できるのか疑問を呈したのである。しかし、絶大な権力を背景に持つミカエル・セフルは、こうした懸念を一蹴した。「彼が馬に乗る際は、私が手助けをしましょう」と言い放ち、反対を押し切ってヨハンネスを強引に皇帝の座に就位させたのである。さらにミカエルは、自身の政治的立場を盤石なものとするため、自らの孫娘であるワレッタ・セラシエを新皇帝ヨハンネスと結婚させた。これは、血縁を通じて皇帝をより強く支配下に置こうとする意図の表れであった。

かくして皇帝となったヨハンネス2世であったが、彼の治世は名目上のものに過ぎなかった。彼が即位した18世紀後半は、エチオピア帝国において皇帝の権威が著しく衰退し、各地の有力なラスたちが実質的に国家を分断支配する「ラスの時代」と呼ばれる特異な群雄割拠期であった。この時代、皇帝は往々にして、特定のラスによって擁立され、その都合の良いように利用される傀儡であった。ヨハンネス2世の場合も例外ではなく、彼を皇帝に据えたミカエル・セフルが政治・軍事の全ての実権を掌握し、ゴンダル（当時の首都）の宮廷において絶対的な権力を振るった。ヨハンネス2世自身には、この状況を打開する力も、あるいは意思もほとんどなかったと考えられる。

彼の悲劇的な治世は、あまりにも短い期間で幕を閉じた。即位からわずか約5ヶ月後の1769年10月18日、ヨハンネス2世は毒によって命を落としたのである。この死は、彼を皇帝の座に就けた張本人であるミカエル・セフルの指示によるものと広く推測されている。

後世の歴史家でエチオピア研究の大家であるウォーリス・バッジは、その著作の中でヨハンネス2世について簡潔に触れている。バッジが伝えるところによれば、ヨハンネス2世は軍務というものに強い嫌悪感を抱いており、軍隊を率いて行進することを頑なに拒否したという。彼はむしろ、かつて軟禁されていたウェフニーのような場所で、政治から離れて静かに隠棲したいとミカエル・セフルに願い出たほどであったとされる。ミカエル・セフルは確かに皇帝の代わりとして軍隊を率いたが、同時に、このように政治や軍事に無関心で、皇帝としての役割を果たそうとしないヨハンネスをゴンダルの玉座に置いておくことは、自身の長期的な計画にとって致命的な障害となると考えたのだろうとバッジは示唆している。そして、バッジはミカエル・セフルがヨハンネス2世の朝食に毒を混ぜて暗殺した可能性が極めて高いとの見解を示している。この記述は、ヨハンネス2世が皇帝としての野心や能力を持たず、むしろ静穏を求めた人物であったこと、そしてそれを擁立者であるミカエル・セフルが許容せず、用済みと判断するや否や冷酷に排除したという、この時代の権力闘争の非情さを物語っている。

ヨハンネス2世の治世は短く、特筆すべき功績は残されていない。しかし、彼の人生、特に即位の経緯と毒殺という最期は、「ラスの時代」という混乱期において、皇帝という存在がいかに無力であり、権力者たちの思惑によって容易に運命を左右されたかを示す象徴的な事例となっている。彼は権力者に担ぎ上げられ、そして排除されるという、この時代の多くの皇帝がたどった悲劇的な道を歩んだのである。彼の死後、次代の皇帝にはテクレ・ハイマノット2世が即位したが、ラスたちの時代は容易に終わりを迎えることはなかった。

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