ウォーリス・バッジ
サー・アーネスト・アルフレッド・トンプソン・ウォーリス・バッジ（1857年7月27日生、1934年11月23日没）は、イギリスの優れた考古学者であり、特に古代エジプトおよびアッシリアの研究者として知られています。彼は大英博物館で長きにわたり重要な役割を担い、数多くの学術的業績を残しましたが、その遺物収集を巡る手段については、現在に至るまで様々な議論が提起されています。
彼の生涯は、必ずしも恵まれたスタートではありませんでした。1857年、コーンウォール州ボトミンに私生児として生まれ、姓である「バッジ」は母方のものです。彼はロンドンに移り、母方の親戚と共に生活しました。12歳で書店チェーンW.H.スミスの小売店員として働き始めますが、向学心は衰えず、勤務時間外にはボランティアの教師からヘブライ語やシリア語を学びました。1872年頃からは大英博物館に頻繁に通うようになり、そこで古代アッシリア語に強い関心を抱くようになります。当時の著名なエジプト学者サミュエル・バーチやその助手のジョージ・スミスと出会い、彼らから学ぶ機会を得ました。熱心にアッシリア語を独学する彼の姿を見たオルガン奏者のサー・ジョン・ステイナーは、首相ウィリアム・グラッドストンらと協力して彼を支援し、ケンブリッジ大学への進学を後押しします。大学では1883年まで、ヘブライ語、シリア語、エチオピア語、アラビア語といった様々なセム系言語を中心に幅広く学びました。
ケンブリッジ大学を卒業後、苦学したバッジは、支援者であったグラッドストン首相の推薦を得て大英博物館に職を得ます。当初はアッシリア部に配属されましたが、間もなくエジプト部へと移り、当時のエジプト学の権威であったサー・ピーター・ル・ページ・レヌーフの下で研究を進めました。1886年以降、彼は大英博物館の代理としてエジプトやメソポタミア地方へ派遣され、古代遺跡の発掘調査に立ち会ったり、貴重な古遺物や古文書の収集、購入を行ったりしました。これらの精力的な活動により、大英博物館の古代オリエント関連コレクションは飛躍的に充実していきます。
1891年にレヌーフが引退すると、バッジはエジプト・アッシリア部長に就任しました。この職を1894年から1924年までの実に30年間にわたって務め上げます。部長として彼は、現地での継続的な調査を指揮する一方で、一般市民向けの解説書を多数執筆・出版しました。これにより、当時のイギリス国民の間で古代オリエント地域に対する関心が高まるのに大きく貢献しました。また、彼は遺物の価値を見抜く優れた鑑識眼を持っており、博物館のコレクション形成において重要な役割を果たしました。特に有名なエピソードとして、発掘者を通じて市場に出回っていたアマルナ文書の一部を購入し、イギリスへ持ち帰ったことが挙げられます。この文書は後にウィリアム・ピートリーによって解読され、古代エジプト史研究に大きな貢献をしました。こうした長年の功績が認められ、バッジは1920年にナイトの称号を授与されました。
しかし、バッジの遺物収集を巡る手法には、当時から厳しい批判が向けられました。彼は時に合法性を問われるような手段を用いてでも、発掘品をエジプトから持ち帰ることに長けていたとされます。その法の網を掻い潜る手腕は卓越しており、この強引なやり方に対し、本国イギリス国内からも「泥棒同然」との声が上がったのです。皮肉にも、バッジの評価を高めるきっかけとなったアマルナ文書の解読者であるウィリアム・ピートリーも、彼の手法の批判者の代表的人物でした。また、アッシリア学の先駆者ヘンリー・レヤードの後継者ホルムズド・ラッサムもバッジを激しく非難し、裁判に発展したこともあります。
こうした批判に対し、バッジは自己の行動を正当化する主張を展開しました。彼は、当時他の欧米諸国も同様の活動を行っていたこと、そして何よりも、現地では換金目的の盗掘が横行し、貴重な遺物が闇市場に流れ、個人の手に渡って散逸してしまう危険性が高かったことを指摘しました。また、当時の現地政府には盗掘を阻止したり、博物館を設置して出土品を適切に管理したりするだけの力が不足していたため、大英博物館のような大規模な機関のコレクションとなった方が、より多くの人々の学術研究や鑑賞に供されることになり、結果として人類全体の利益に資すると唱えました。19世紀末から20世紀初頭にかけてのエジプト、トルコ、イラクといった国々の状況を考慮すれば、彼の主張にも一理ないとは言えません。しかし、同時に、外国の文化遺産を密輸などの非合法的な行為を含む形で収奪したのもまた事実です。この歴史的な行為は、現代において中東諸国がイギリス政府や大英博物館に対して、自国の文化遺産の返還を要求する際の正当な根拠の一つともなっています。
ウォーリス・バッジは、その類まれな語学力と情熱をもって古代オリエント研究に多大な貢献をし、大英博物館のコレクションを世界有数のものへと育て上げました。多数の著作を通じて一般への啓蒙にも努めましたが、その強力な遺物収集手法は、功績と同時に現代へと続く議論の種を残したと言えるでしょう。
彼の生涯は、必ずしも恵まれたスタートではありませんでした。1857年、コーンウォール州ボトミンに私生児として生まれ、姓である「バッジ」は母方のものです。彼はロンドンに移り、母方の親戚と共に生活しました。12歳で書店チェーンW.H.スミスの小売店員として働き始めますが、向学心は衰えず、勤務時間外にはボランティアの教師からヘブライ語やシリア語を学びました。1872年頃からは大英博物館に頻繁に通うようになり、そこで古代アッシリア語に強い関心を抱くようになります。当時の著名なエジプト学者サミュエル・バーチやその助手のジョージ・スミスと出会い、彼らから学ぶ機会を得ました。熱心にアッシリア語を独学する彼の姿を見たオルガン奏者のサー・ジョン・ステイナーは、首相ウィリアム・グラッドストンらと協力して彼を支援し、ケンブリッジ大学への進学を後押しします。大学では1883年まで、ヘブライ語、シリア語、エチオピア語、アラビア語といった様々なセム系言語を中心に幅広く学びました。
ケンブリッジ大学を卒業後、苦学したバッジは、支援者であったグラッドストン首相の推薦を得て大英博物館に職を得ます。当初はアッシリア部に配属されましたが、間もなくエジプト部へと移り、当時のエジプト学の権威であったサー・ピーター・ル・ページ・レヌーフの下で研究を進めました。1886年以降、彼は大英博物館の代理としてエジプトやメソポタミア地方へ派遣され、古代遺跡の発掘調査に立ち会ったり、貴重な古遺物や古文書の収集、購入を行ったりしました。これらの精力的な活動により、大英博物館の古代オリエント関連コレクションは飛躍的に充実していきます。
1891年にレヌーフが引退すると、バッジはエジプト・アッシリア部長に就任しました。この職を1894年から1924年までの実に30年間にわたって務め上げます。部長として彼は、現地での継続的な調査を指揮する一方で、一般市民向けの解説書を多数執筆・出版しました。これにより、当時のイギリス国民の間で古代オリエント地域に対する関心が高まるのに大きく貢献しました。また、彼は遺物の価値を見抜く優れた鑑識眼を持っており、博物館のコレクション形成において重要な役割を果たしました。特に有名なエピソードとして、発掘者を通じて市場に出回っていたアマルナ文書の一部を購入し、イギリスへ持ち帰ったことが挙げられます。この文書は後にウィリアム・ピートリーによって解読され、古代エジプト史研究に大きな貢献をしました。こうした長年の功績が認められ、バッジは1920年にナイトの称号を授与されました。
しかし、バッジの遺物収集を巡る手法には、当時から厳しい批判が向けられました。彼は時に合法性を問われるような手段を用いてでも、発掘品をエジプトから持ち帰ることに長けていたとされます。その法の網を掻い潜る手腕は卓越しており、この強引なやり方に対し、本国イギリス国内からも「泥棒同然」との声が上がったのです。皮肉にも、バッジの評価を高めるきっかけとなったアマルナ文書の解読者であるウィリアム・ピートリーも、彼の手法の批判者の代表的人物でした。また、アッシリア学の先駆者ヘンリー・レヤードの後継者ホルムズド・ラッサムもバッジを激しく非難し、裁判に発展したこともあります。
こうした批判に対し、バッジは自己の行動を正当化する主張を展開しました。彼は、当時他の欧米諸国も同様の活動を行っていたこと、そして何よりも、現地では換金目的の盗掘が横行し、貴重な遺物が闇市場に流れ、個人の手に渡って散逸してしまう危険性が高かったことを指摘しました。また、当時の現地政府には盗掘を阻止したり、博物館を設置して出土品を適切に管理したりするだけの力が不足していたため、大英博物館のような大規模な機関のコレクションとなった方が、より多くの人々の学術研究や鑑賞に供されることになり、結果として人類全体の利益に資すると唱えました。19世紀末から20世紀初頭にかけてのエジプト、トルコ、イラクといった国々の状況を考慮すれば、彼の主張にも一理ないとは言えません。しかし、同時に、外国の文化遺産を密輸などの非合法的な行為を含む形で収奪したのもまた事実です。この歴史的な行為は、現代において中東諸国がイギリス政府や大英博物館に対して、自国の文化遺産の返還を要求する際の正当な根拠の一つともなっています。
ウォーリス・バッジは、その類まれな語学力と情熱をもって古代オリエント研究に多大な貢献をし、大英博物館のコレクションを世界有数のものへと育て上げました。多数の著作を通じて一般への啓蒙にも努めましたが、その強力な遺物収集手法は、功績と同時に現代へと続く議論の種を残したと言えるでしょう。
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