ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー

ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー：18世紀ドイツの巨人

ヨハン・ゴットフリート・ヘルダー(1744-1803)は、18世紀ドイツを代表する哲学者、文学者、詩人、そして神学者です。貧しい織物職人の家庭に生まれた彼は、並外れた才能で周囲を驚かせ、ケーニヒスベルク大学で哲学を学びました。カントの講義に刺激を受けながらも、独自の哲学体系を構築し、後世のドイツ文学や哲学に計り知れない影響を与えた人物と言えるでしょう。

ケーニヒスベルクでの学びとリガでの活躍

ケーニヒスベルク大学では、医学を志しながら神学部へ転向。カントの講義に深い感銘を受けました。しかし、カント以上に親交を深めたのは、思想家ハーマンでした。ハーマンとの交流を通して、シェイクスピアやヒュームの哲学に触れ、彼の思想形成に大きな影響を与えました。大学卒業後、リガの大聖堂の説教師に就任。熱心な教育活動と並行して、文筆活動を開始し、『現代ドイツ文学断章』を発表。この作品は、彼の歴史主義的な見解を鮮やかに示しており、後の言語哲学、歴史哲学の礎となりました。この作品は、当時隆盛を誇っていた、レッシングやメンデルスゾーンといった知識人の間で大きな反響を呼び、ヘルダーの名声を高めました。
しかし、リガでの活動は順風満帆ではありませんでした。ある批評が原因で論争に巻き込まれ、結果としてリガを去ることを決意。フランスへの旅に出発します。

フランス、そしてゲーテとの出会い

フランスでは、ディドロやダランベールといった著名な思想家と交流し、フランス文学や哲学を深く学びました。その後、ドイツの王子の教養旅行に同行する機会を得ますが、宮廷生活には馴染めず、シュトラスブルクで職を辞し、牧師となる準備を始めました。この時、若きゲーテと出会います。この出会いは、ドイツ文学史において特筆すべき出来事であり、ヘルダーはゲーテにシュトゥルム・ウント・ドラングの新しい文学観を伝授しました。

言語に関する懸賞論文として『言語起源論』を発表。この作品は、言語を神による創造物ではなく、人間が作り出したものと定義し、後の言語学に大きな影響を与えました。

ヴァイマルでの晩年とカントとの論争

シュトラスブルク滞在後、彼はビュッケブルクで牧師として務めました。しかし、経済的な苦労や孤独も経験しました。その後、ゲーテの尽力によりヴァイマル公国の宗務管区の総監督に就任し、学問に専念できる環境を得ます。ヴァイマルでは、ゲーテと共同でスピノザの哲学を研究するなど、ドイツでも屈指の学者として活躍しました。

晩年は、人類の歴史発展過程を論じた未刊の大著『人類歴史哲学考』を著すなど精力的に執筆活動を続けました。フランス革命にも感銘を受け、『人間性促進のための書簡』を著しました。しかし、彼の歴史観や哲学は、ゲーテやシラー、そしてカントからも厳しい批判を受けました。

これに対し、ヘルダーはカントの批判哲学に対する反論として『純粋理性批判のメタ批判』や『カリゴーネ』を著しました。ヘルダーは、カント哲学が人間の理性の本質を捉えていないと主張しました。この論争は、ヘルダーの哲学がカント哲学とは異なる独自の立場を持つことを明確に示すものとなりました。ヘルダーの哲学は、20世紀において、歴史主義や人間学的な立場が重視される中で、再評価されることになります。

ヴァイマルで晩年を過ごし、1803年に59歳で亡くなりました。彼の著作は、ドイツ文学や哲学に多大な影響を与え続け、現在でも世界中で研究されています。

主要著作の日本語訳

ヘルダーの著作は、多岐に渡り、日本語訳も数多く存在します。ここでは、入手しやすいものをいくつか紹介します。

『ヘルダー旅日記』
『ヘルダー民謡集』
『人類歴史哲学考』(岩波文庫)
『言語起源論』(複数の翻訳版あり)
『神　第一版・第二版　スピノザをめぐる対話』
『人間形成に関する私なりの歴史哲学』
『世界の名著38巻　ヘルダー／ゲーテ』
『人間史論』全4巻
『歴史哲学』
『民族詩論』

これらの著作を通して、彼の多様な思想に触れることができます。彼の生涯と業績は、現代の私たちにとっても多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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