ヨハン・フィリップ・ライス

ヨハン・フィリップ・ライス：独学の科学者、初期の電話を発明

ヨハン・フィリップ・ライス（1834年 1月7日 - 1874年 1月14日）は、独学で科学者・発明家となったドイツ人です。彼は、1861年に初期の電話である「ライス式電話」を開発し、この装置を最初に「テレフォン」と名付けました。また、ローラースケートやインラインスケートのアイデアも考案しましたが、これらはすでに他の人物によって発明されていました。

若年期と教育

ライスは、ドイツのゲルンハウゼンで、パン職人のカール・シグムンド・ライスとマリー・カタリーナ（旧姓グロックナー）の息子として生まれました。父親は福音教会の信徒でした。母親はライスが幼い頃に亡くなり、父方の祖母に育てられました。6歳で地元の公立学校に入学すると、その才能は教師の目に留まり、高等教育を受けることを勧められました。10歳の時に父親も亡くし、その後は祖母と後見人の支援で、フリードリヒスドルフのガルニエ大学に進学しました。ライスはここで言語に興味を持ち、英語とフランス語を習得し、図書館で幅広い知識を身につけました。

14歳の終わりには、フランクフルト・アム・マインのハッセル大学に入学し、ラテン語とイタリア語を学びました。科学への情熱も明らかになり、保護者は彼をカールスルーエ工科大学に進学させようとしました。しかし、叔父の意向で、ライスは1850年3月1日にフランクフルトのJ.F.バイエルバッハのもとで塗料商人としての修業を始めました。ライスは叔父に「仕事は学ぶが、できる限り学業を優先したい」と伝え、仕事と学業の両立を目指しました。

自己研鑽と教師への道

ライスは、バイエルバッハでの仕事で信用を得ると、余暇を利用して商業学校の機械工学教授R.ベッガーの講義に出席し、数学と物理学の個人授業を受けました。内弟子期間を終えた後は、フランクフルトのDr.ポッペの研究室に参加しました。ここでは、研究生たちが地理や歴史を教え合う中で、ライスは地理を教えることに天職を見出したと確信しました。この時期にはフランクフルト物理学会のメンバーにもなりました。

1855年、ライスはカッセルでの兵役を終え、フランクフルトに戻って、数学と科学の教師としての資格を得ました。ハイデルベルク大学での訓練を考えていたものの、1858年の春には、旧友であり師でもあったホーフラート・ガルニエから、ガルニエ大学での職を提案されました。1859年9月14日には、仕立て屋の娘マルガレッタ・シュミットと結婚し、フリードリヒスドルフに引っ越して、フランス語、物理学、数学、化学の教師としての新たなキャリアをスタートさせました。家を購入した彼は、余暇を電気工学と機械工学の研究に費やし、ローラースケートや手動式の三輪車、自動車の初期型を開発しました。1861年2月14日には娘のエリスが、2年後には息子のカールが誕生しました。

電話の開発

ライスは、電気が光のように物質的な導体を必要とせずに空間を伝わるものだと考えていました。この考えに基づき、彼は数々の実験を行いました。1859年には、その結果を論文「電気の輻射について」にまとめ、当時著名だった物理学者ヨハン・クリスティアン・ポッゲンドルフ教授に送りましたが、掲載を拒否され、大きな失望を味わいました。

ライスは、後にグラハム・ベルが行ったように、耳の器官についても研究していました。電気を使って音を伝える装置のアイデアは、長年彼の頭の中にありました。物理学の教えに触発され、彼はこの問題に取り組み、1860年には100メートルの距離をカバーできる電話の最初のプロトタイプを完成させました。1862年には、この装置を「テレフォン」と名付け、再びポッゲンドルフ教授に論文を送りましたが、学識ある教授には受け入れられず、再び掲載を拒否されました。ライスはこれを「私が貧しい教師に過ぎないからだろう」と受け止めました。

電話の評価と再評価

1861年10月、フランクフルトの物理学会で初めてプロトタイプを公開し、「ガルバニック電流の仲介による任意の距離での音の再現について」という題でプレゼンテーションを行いました。その後、学会の年次報告書にライスの技術レポートが掲載されました。1862年には、フランクフルトにある王立プロイセン電信兵団のヴィルヘルム・フォン・レガートが装置の実演を見て注目し、科学雑誌に記事を掲載しました。しかし、この雑誌は科学的な名声がなかったため、評判は芳しくありませんでした。

1863年9月6日、フランクフルトのゲーテハウスで行われたオーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世を前にしたデモンストレーションで、ライスの電話から音楽が流されました。このイベントをきっかけに、電話の評価が見直されることになりました。これらの成果に励まされ、ライスは科学実証機を大量生産し、世界的に販売しましたが、商業的には失敗しました。

後年の評価と晩年

ライスは世界的な名声を得ましたが、電話には多くの欠点があったため、すぐにその名声は失われました。1867年には、彼を名誉会員として選出したフランクフルトの自由ドイツ研究所も、この器具を「哲学的なおもちゃ」として無視しました。しかし、ライス自身は、この発明がいつか世界的に普及することを確信していました。1854年に拒否されたポッゲンドルフ教授から、資料と装置を送って欲しいと依頼された際には、「それは遅すぎます。今、私は発送したくありません。私の装置はアナーレンで説明せずとも知られるようになると思う」と返答しました。

電話の改良を試みる中で、ライスは結核に苦しみ、長い闘病生活を強いられました。1873年12月には病状が悪化し、寝たきりとなりました。1874年 1月14日、世界で初めて電話を発明した偉大な発明家は、結核の合併症により40歳でこの世を去りました。彼の遺体は、フリードリヒスドルフに埋葬されました。

1878年、電話が商業化された年に、フランクフルト物理学会のメンバーは、彼の墓の上にメダリオンの肖像画を持つ赤い砂岩のオベリスクを建てました。

19世紀の評価と博物館

世界で最も権威ある科学ジャーナル『ネイチャー』は、1878年にライスフォンの発明の段階と構造を解説しました。1883年には、イギリスの物理学者シルバヌス・P・トンプソンが著した伝記『Philipp Reis: Inventor of the Telephone』が出版されました。

ライスが住んでいたフリードリヒスドルフの家は、彼の資料を展示したフィリップ・ライス・ハウス博物館となっています。また、ドイツ博物館の電気通信部門には胸像が設置され、ベルリンのコミュニケーション博物館には、最初のライスフォンが展示されています。

名祖

ヨハン・フィリップ・ライスの名が名祖となったものには、以下のものがあります。

フィリップ・ライス賞（電気通信分野での模範的なサービスを行った個人に贈られる賞）
フィリップ・ライス賞（通信技術分野で顕著な貢献をした人物に贈られる賞）
フィリップ・ライス・ハウス（博物館）
フィリップ・ライス学校（中等教育学校・総合学校）
Philipp-Reis-Passage（道路）
Philipp-Reis-Straßen（道路）