ヨハン・ヤーコブ・ショイヒツァー

ヨハン・ヤーコブ・ショイヒツァー（Johann Jakob Scheuchzer、1672年8月2日 – 1733年6月23日）は、スイスの博物学者、著述家として知られています。彼の生涯と業績を詳しく見ていきましょう。

生涯

1672年、ショイヒツァーはチューリッヒで生まれました。父親はチューリッヒ市の主任医師という恵まれた環境で育ち、チューリッヒで教育を受けた後、1692年にニュルンベルク近郊のアルトドルフ大学で学びました。1694年にはユトレヒト大学から医学博士号を取得し、1696年にチューリッヒに戻り、市の医師（Poliater）として活動を始めました。

医師としての活動と並行して、1710年からは数学教授も務めました。また、フランス人アンリ・マクギガン（Henri McGuigan）と共にシダ類の化石を発見したことをきっかけに、多くの化石を収集するようになります。1733年1月には、チューリッヒ大学の物理学教授に就任すると同時に、チューリッヒ市の主任医師の職も引き継ぎました。

業績

ショイヒツァーは生涯で34冊もの書籍を出版したとされ、その著作は博物学の分野に多大な貢献をしました。特に、博物学の書籍や標本収集のために行った旅行記は、貴重な資料として高く評価されています。

自主出版された「スイス自然史の解説」（Beschreibung der Naturgeschichte des Schweitzerlandes、1706-1708）は、彼の代表的な著作の一つです。この書籍は3巻から構成され、第3巻には1705年のドイツ旅行の内容が記述されています。1746年にはヨハン・ゲオルク・ズルツァーによって、「スイス自然史の解説とスイス山地の旅行」（Naturgeschichte des Schweitzerlandes sammt seinen Reisen über die schweitzerischen Gebirge）というタイトルで再刊されました。

また、「スイスの自然史」（Helvetiae historia naturalis oder Naturhistorie des Schweitzerlandes、1716–1718）は、ヨジアス・ジムラー（Josias Simmler）の著作（1574年）、ゴットリープ・ジークムント・グルナーの著作（1760年）と並び、スイスの自然（山岳、河川、湖沼、鉱泉、気象、地質）に関する重要な著作として知られています。

1703年11月30日には王立協会フェローに選出され、王立協会の学術論文誌である『フィロソフィカル・トランザクションズ』に多数の論文を執筆しました。

古生物学への貢献と限界

古生物学の分野では、著書『Lithographia Helvetica』の中で、化石を聖書の洪水の遺骸として解釈しました。特に有名なのは、バーデンの採石場で発見された化石骨格をノアの洪水で亡くなった人間の遺骨であると主張したことです。この主張は、1811年にジョルジュ・キュヴィエによって、それが先史時代のサンショウウオの化石であることが示されるまで信じられていました。

現代の視点から見ると、彼の解釈は科学から逸脱しているように思えますが、1728年に刊行された『神聖自然学（Physica Sacra）』は、750枚もの銅版画を用いて聖書の記述に合わせて自然を体系化した著作として、当時の思想を反映する貴重な資料となっています。

後世への影響

ホロムイソウ科（Scheuchzeriaceae）やホロムイソウ属（Scheuchzeria）の学名は、ヨハン・ヤーコブ・ショイヒツァーと弟のヨハン・ガスパール・ショイヒツァーにちなんで命名されています。

また、息子のヨハン・カスパー・ショイヒツァーは、ハンス・スローンによって出版されたエンゲルベルト・ケンペルの『日本誌』英語版の翻訳・編集者として知られています。

このように、ヨハン・ヤーコブ・ショイヒツァーは、博物学、古生物学、医学、数学など、多岐にわたる分野で貢献し、後世に大きな影響を与えた人物です。

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