ヨリス・イヴェンス

ヨリス・イヴェンス（1898年11月18日 - 1989年6月28日）は、オランダのナイメーヘンで生まれ、後にフランスで活躍した映画監督です。ドキュメンタリー映画の先駆者として知られ、その作品は社会の不平等や矛盾を鋭く捉え、時に戦闘的な視点から文明の発展を描き出しました。

生涯と作風

イヴェンスは「オランダ写真界の元祖」と称される人物を祖父に持ち、幼い頃から写真に親しんでいました。ドイツのシャルロッテンブルク工科大学（現在のベルリン工科大学）で写真化学を学んだ後、映画の世界へ足を踏み入れます。彼の初期作品は、社会的なテーマを扱い、特に労働者の苦境や搾取に焦点を当てました。

1933年にアンリ・ストルクと共同監督した『ボリナージュの悲劇』は、ベルギーの炭鉱地帯で働く労働者たちの悲惨な状況を告発した作品として知られています。この作品は、プロレタリア搾取の残酷さを浮き彫りにし、イヴェンスの作品における社会批判の姿勢を明確に示しました。

イヴェンスの作品は、ヨーロッパだけでなく、世界各地を舞台に展開されました。スペイン内戦を描いた『スペインの大地』（1937年）、中国革命を記録した『四億』（1939年）など、政治的な視点を含んだドキュメンタリー作品を制作しています。また、第二次世界大戦中には、ソ連やアメリカでプロパガンダ映画を制作し、戦時下の現実を伝えました。

戦後は、世界各地で社会変革の動きを記録し続けました。特にアジアに焦点を当てた作品が多く、ベトナム戦争を記録した『北緯17度』（1968年）は、戦争の悲惨さを描き出し、国際的な反戦運動を盛り上げる一助となりました。遺作となった『風の物語』（1988年）は、老境に達したイヴェンス自身の姿を描き、その映像作家としての生涯を締めくくりました。

イヴェンスは、その功績から、1954年に国際平和賞、1968年にはレーニン平和賞を受賞しています。また、映画監督のマルセリーヌ・ロリダン＝イヴェンスと結婚していました。1989年6月28日、フランスのパリで亡くなり、モンパルナス墓地に眠っています。

主な作品

長編

1930年: 『ザイデル海』
1931年: 『フィリップス・ラジオ』、『クレオソート』
1933年: 『新しい土地』、『ボリナージュ』
1935年: 『国会議事堂放火』
1937年: 『スペインの大地』
1939年: 『四億』
1940年: 『力と土地』
1942年: 『我々のロシア戦線』
1943年: 『出撃準備』
1946年: 『インドネシアからの呼びかけ』
1949年: 『最初の年』
1951年: 『平和が勝つ』
1952年: 『世界青年祭』
1954年: 『河の歌』
1956年: 『戦いの鐘は高らかに』
1957年: 『セーヌの詩』
1960年: 『イタリアは貧しい国ではない』、『明日、ナンギラで』
1961年: 『旅行日誌』、『武装した人々』
1965年: 『ベトナム』
1967年: 『ベトナムから遠く離れて』(オムニバス映画)
1968年: 『北緯17度』、『人民とその銃』
1969年: 『ホー・チ・ミン主席との出会い』
1973年: 『中国』
1976年: 『ユコンが山を動かす方法』
1988年: 『風の物語』

短編

1928年: 『橋』
1929年: 『雨』
1963年: 『バルパライソにて』、『小さなサーカス』
* 1966年: 『ユーロポート』

イヴェンスの作品は、ドキュメンタリー映画の可能性を追求し、社会変革を促す力を持っています。彼の作品は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

もう一度検索