ヨークの戦い

ヨークの戦い：米英戦争における戦略的な小競り合い

ヨークの戦い（1813年4月27日）は、米英戦争の最中に、現在カナダのオンタリオ州トロントであるヨーク（当時アッパー・カナダの首都）で発生しました。この戦いは、アメリカ軍がオンタリオ湖の支配権を確立しようとする試みの一環でしたが、戦略的には大きな影響を与えることはありませんでした。

戦いの背景

1812年、米英戦争が勃発すると、オンタリオ湖はアメリカとイギリスの間の重要な戦場となりました。イギリス軍は、プロビンシャル・マリーンと呼ばれる小さな海軍戦力を有しており、これにより湖の制海権を握っていました。この制海権により、アッパー・カナダのイギリス軍は、アメリカ軍の侵攻に迅速に対応することができました。

アメリカ海軍は、アイザック・チョウンシー代将を指揮官に任命し、オンタリオ湖の支配権奪還を目指しました。チョウンシーは、スクーナーを武装させ、さらに戦闘艦を建造することで、海軍力を増強しました。しかし、冬の到来により両軍の戦隊は港に閉じ込められ、本格的な戦闘は翌年に持ち越されることとなりました。

イギリス軍もアメリカ軍に対抗するため、キングストンとヨークで軍艦の建造を進めていました。ヨークで建造された艦は、1812年に戦死したアイザック・ブロック少将にちなんで「HMSサー・アイザック・ブロック」と命名されました。

アメリカ軍の作戦

1813年1月、アメリカ陸軍長官に就任したジョン・アームストロング・ジュニアは、オンタリオ湖の情勢を分析し、キングストンを占領する作戦を立案しました。彼の計画では、7,000人の正規兵がサケッツ港に集結し、チョウンシーの海軍戦隊と連携してキングストンを攻撃することになっていました。キングストンを占領すれば、その海軍造船所とプロビンシャル・マリーンの艦船を破壊でき、アッパー・カナダのイギリス軍の補給線を断つことが可能となると考えられていました。

しかし、アームストロングの計画は、指揮官であるヘンリー・ディアボーン少将とチョウンシー代将によって変更されました。彼らは、イギリス軍の増援部隊がキングストンに集結していると過大に評価し、より守備の薄いヨークを攻撃することを提案しました。ヨークはアッパー・カナダの首都でしたが、軍事的な重要性はキングストンに劣ると考えられていました。アームストロングは、現場の判断を優先し、この作戦変更を黙認しました。

戦闘の経過

1813年4月26日、アメリカ軍はヨーク沖に到着しました。チョウンシーの海軍戦隊はコルベット1隻、ブリッグ1隻、スクーナー12隻で構成され、ゼブロン・パイク准将が指揮する1,600～1,800人の陸兵が上陸準備を始めました。一方、ヨークの守備隊は、正規兵4個中隊と民兵300名、そして少数のインディアンで構成されていました。

4月27日早朝、アメリカ軍はヨークの西側に上陸を開始しました。チョウンシーのスクーナーによる砲撃支援を受け、アメリカ軍は上陸を成功させました。イギリス軍は、インディアンの抵抗と擲弾兵中隊による突撃を試みましたが、アメリカ軍の数と火力に圧倒され、徐々に後退を余儀なくされました。

イギリス軍は、西砲台周辺で再結集しようとしましたが、砲台の弾薬庫が爆発し、混乱と大きな損失を出しました。さらに、チョウンシーのスクーナーによる艦砲射撃により、イギリス軍は砦の北側に後退しました。シーフ少将は、敗北を悟り、正規兵に撤退を命じ、町への追撃を阻止するため、ドン川の橋に火を放ちました。

シーフは、造船所で建造中の「HMSサー・アイザック・ブロック」に火をつけ、砦の火薬庫を爆破するよう指示しました。しかし、この指示は、民兵や町の指導者たちには伝えられませんでした。砦の火薬庫の爆発は、アメリカ軍の先導隊に大きな被害をもたらし、パイク准将を含む多数の兵士が死傷しました。

戦闘の終結とその後

戦闘の結果、アメリカ軍は公式記録で戦死55名、負傷265名の損害を受けました。一方、イギリス軍は、戦死82名、負傷43名、捕虜274名、その他を含め、合計475名の損害を被りました。

ヨークの民兵は、降伏条件を交渉しましたが、アメリカ軍は火薬庫爆発の怒りから、町を略奪し、一部の建物を焼き払いました。特に、植民地議会の議事堂は、アメリカ兵によって火をつけられ、その象徴的な意味合いから、後にカナダ人の感情を大きく刺激することになりました。

アメリカ軍は、捕獲した物資を運び出すためにヨークに留まりましたが、強風により出発が遅れました。5月8日にようやくヨークを出発したアメリカ軍は、ナイアガラ半島で次の作戦を開始しました。

ヨークの戦いは、戦略的には大きな影響を与えませんでしたが、エリー湖の戦いの結果に影響を与えたと考えられています。イギリス軍の補給物資がアメリカ軍に奪われ、その結果、イギリス軍は戦力を十分に発揮することができなかったからです。

その後の攻撃

1813年7月、アメリカ軍は再度ヨークを攻撃しました。この時、イギリス軍の守備隊はバーリントンハイツに移動しており、ヨークには抵抗勢力は残っていませんでした。アメリカ軍は、兵舎を焼き、軍需物資を捕獲し、前回の戦闘で略奪した一部の私物や公共図書館の本を返却しました。

ヨークの戦いの遺産

ヨークの戦いは、カナダとアメリカの関係に大きな影響を与えた戦闘でした。アメリカ軍による略奪と焼き討ちは、カナダ人のナショナリズムを刺激し、両国間の根深い対立を生み出す一因となりました。現在、ヨークの戦いの舞台となったトロントでは、この歴史的な出来事を記念する碑が建てられています。

参考資料

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