ヨーロッパの解放

映画『ヨーロッパの解放』の概要

『ヨーロッパの解放』は、ソビエト連邦によって制作された独ソ戦をテーマとした戦争映画シリーズで、監督はユーリー・オーゼロフが務めました。この作品は1970年に制作が開始され、完成までに3年を要した国家的プロジェクトとして位置付けられています。シリーズは全5部構成で、映画全体の上映時間は合計で7時間48分にも及びます。

物語の流れ

映画は、1943年のクルスクの戦いから1945年のベルリンの戦いまでの歴史的な戦闘を描いています。物語は、無名のソ連軍兵士セルゲイ・ツヴェターエフの視点から語られ、彼の奮闘を通して戦争の現実が伝えられます。製作の背景には、アメリカ製作の映画『バルジ大作戦』に対抗する意図があったとされています。

歴史とキャラクターの描写

本作には、歴史的な人物が多数登場するものの、スターリンは特に個人崇拝的な表現は避けられています。また、登場するキャラクターはフィクションと現実が交錯し、アドルフ・ヒトラーは冷酷な独裁者として描写される一方で、ソ連軍の兵士たちは善良かつ礼儀正しい存在として描かれます。特にゲオルギー・ジューコフはしばしば登場し、彼の軍略と指導力が緻密に表現されていますが、イワン・コーネフはあまりスポットライトを浴びません。こうした描写は、映画としてのストーリー展開を優先しており、史実の再現を目的とはしていない点が特徴です。

冷戦時代の影響

『ヨーロッパの解放』は、東西冷戦時代の作品でありながら、アメリカやイギリスといった連合国に対しては好意的に描かれています。なお、制作当時はグラスノスチ以前の時代であったため、ワルシャワ蜂起などの触れにくい話題には言及されていません。

映画の構成

シリーズは以下の5部で構成されています。

• - 第一部: 「クルスク大戦車戦」
• - 第二部: 「ドニエプル渡河大作戦」
• - 第三部: 「大包囲撃滅作戦」
• - 第四部: 「ベルリンの戦い」
• - 第五部: 「最後の突撃」

これらの各部では、戦車の迫力ある戦闘シーンが展開され、特に第一部には多くの実物戦車が登場します。作品内では、ロシア語とドイツ語といった各国の言語が忠実に使われ、それぞれのキャラクターが自国の言葉で会話している点も特徴的です。

日本での公開とその後

日本では、初公開の際に第一部と第二部がまとめて上映され、その後も多くのメディアで取り上げられました。1979年には、松竹映画の『復讐するは我にあり』の劇中でも一部が使用され、また1973年には日活映画『戦争と人間 第3部・完結編』でもフィルムが流用されました。1977年にはテレビでも放送され、多くの視聴者に親しまれました。長らく映像ソフトは絶版でしたが、2014年にはHDリマスター版がリリースされ、新たなファン層を獲得しました。

まとめ

この作品は、映画としてのエンターテインメント性を持ちながらも、戦争の歴史的背景や登場人物の描写を通して、視聴者に深い感慨を与える力を持っています。『ヨーロッパの解放』は、独ソ戦という激動の時代を映し出す重要な文化遺産とも言えます。

もう一度検索