ヨーロッパヒメウ

概要

カツオドリ目に分類されるウ科の鳥類です。学名をPhalacrocorax aristotelisといい、一般的にヨーロッパヒメウまたはヨーロッパ姫鵜と呼ばれます。特にイギリスでは「シャグ（Shag）」という通称で広く知られています。本種はヨーロッパ西部および南部、アジア南西部、アフリカ北部の岩がちな海岸線に沿って生息し、そこで繁殖を行います。北方で繁殖する一部の個体群を除けば、多くの群れは冬季も繁殖地に近い沿岸域で過ごします。

形態

成鳥は体長が約68センチメートルから78センチメートル、翼を広げた際の幅は95センチメートルから110センチメートルほどの中型から大型の鳥です。全身は黒色の羽毛に覆われていますが、光の当たり方によっては金属的な緑色の光沢を帯びて見えることがあり、そのため「Green Shag」などの別名で呼ばれることもあります。長く伸びた尾と、喉の部分に見られる黄色い斑紋が特徴的です。繁殖期を迎えると、頭頂部に小さな冠羽が現れます。

近縁種であるカワウと比較すると、体はやや小さく、より軽快な印象を受けます。また、くちばしが細いこと、繁殖期の冠羽の有無、羽毛の金属光沢、そして尾羽の枚数（ヨーロッパヒメウは12枚、カワウは14枚）といった点で見分けることができます。若鳥においては、カワウの若鳥よりも下面の色が暗いという違いもあります。

生態

採餌と潜水

ヨーロッパヒメウの活動域は海岸線にほぼ限定されており、カワウのように内陸部の水域で見られることは稀です。主に沿岸の海上で採餌を行い、冬季でも沿岸に十分な魚類がいることが、本種の海岸での越冬を支えています。

ウ科の鳥類の中でも特に潜水能力が高く、深い場所まで潜ることができます。実際に深度計を使った調査では、45メートル以上の水深への潜水記録も確認されています。餌を探す主な場所は海底域で、多種多様な魚類を捕食しますが、最も一般的な獲物はイカナゴです。採餌のために、夜間の休息場所から数キロメートル移動することもあります。

水中に潜る際には、まず水面から一度勢いよく飛び上がってから潜り始める独特の行動を見せます。これは潜水をスムーズにするための助走と考えられています。イギリス沿岸での観察データによると、一度の潜水時間はおよそ20秒から45秒が一般的で、潜水の合間には約15秒の休息時間を取ります。この潜水様式は、肺に蓄えた酸素を血液に溶かし込んで利用する有酸素潜水に対応していると考えられています。

繁殖

繁殖期には、海岸沿いの岩棚、岩の隙間、あるいは小さな洞窟といった場所に巣を作ります。巣は、集めた海藻や小枝を自身の排泄物（グアノ）で固めて作られた、やや乱雑な塊状の構造物となります。営巣期間は比較的長く、早ければ2月下旬から始まりますが、5月以降にずれ込む巣も少なくありません。

通常、1回の繁殖で3個の卵を産みます。孵化した雛は羽毛がなく、自力で体温を維持する能力がないため、親鳥が常時温める必要があります。完全に親鳥の世話に依存して成長し、巣立つまでにはおよそ2ヶ月を要します。巣立ちの時期は、多くの場合は6月上旬から8月下旬の間ですが、まれに10月中旬まで遅くなる個体もいます。

亜種

現在、ヨーロッパヒメウには3つの主要な亜種が認識されています。

Phalacrocorax aristotelis aristotelis - ヨーロッパ北西部（大西洋沿岸）
Phalacrocorax aristotelis desmarestii - ヨーロッパ南部、アジア南西部（地中海、黒海沿岸）
* Phalacrocorax aristotelis riggenbachi - アフリカ北西部沿岸

これらの亜種は、くちばしのサイズや、若鳥の胸部および脚の色合いに微妙な違いが見られます。さらに、2005年の研究など、近年の遺伝的・形態学的調査では、ヨーロッパ南西部の太平洋沿岸に生息する集団が、これら既存の3亜種のいずれとも異なる特徴を持つ可能性が示唆されており、まだ正式に記載されていない新たな亜種である可能性も指摘されています。なお、「シャグ（Shag）」という名称は、南半球に生息するウ科の他のいくつかの種に対しても用いられています。

観察地

ヨーロッパヒメウは、繁殖期の4月下旬から7月中旬にかけて、繁殖コロニーを形成する海岸で比較的容易に観察することができます。イギリスのファーン諸島やスコットランドのファウルズヒュッハ、ノルウェーのルンデ、アイスランド、フェロー諸島、スペインのガリシアなどが、観察に適した場所として知られています。特に、スペイン沖のシエス諸島には世界で最も規模の大きな繁殖地があり、約2,500つがいが生息し、世界全体の個体数の約25%を占めていると報告されています。

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