ラインバッカー作戦

ラインバッカー作戦：ベトナム戦争における転換点

ラインバッカー作戦は、1972年5月9日から10月23日にかけて、アメリカ軍が北ベトナムに対して実施した一連の航空作戦です。この作戦は、北ベトナム軍による南ベトナムへの大規模な侵攻「グエン・フエ攻勢」（西側ではイースター攻勢として知られる）を阻止し、北ベトナムへの補給路を遮断することを目的としていました。1968年以来停止していた北爆が再開され、アメリカ軍の航空戦力が最大限に投入された作戦です。

グエン・フエ攻勢

1972年3月30日、3万人の北ベトナム軍が戦車と砲兵の支援を受け、南ベトナムに侵攻を開始しました。この攻勢は、南ベトナム軍とアメリカ軍を大きく混乱させました。北ベトナム軍は、南ベトナム軍の防衛線を突破し、各地で激しい戦闘が繰り広げられました。北ベトナム軍は、カンボジアやラオスからも侵攻し、南ベトナム各地で拠点を占拠、首都サイゴンへの侵攻も現実味を帯びていました。しかし、雨季の到来により航空支援が困難となり、北ベトナム軍の進撃は徐々に鈍化していきました。

アメリカ軍は当初、この攻勢に対する対応が遅れました。しかし、事態を重く見たニクソン大統領は、北爆の再開を決定しました。当初、ハノイやハイフォンへの爆撃も検討されましたが、ソ連との戦略兵器制限交渉への影響を考慮し、まずはDMZ周辺の爆撃から開始することになりました。

アメリカ軍の戦力増強

アメリカ軍は、攻撃に対応するため、航空戦力を大幅に増強しました。空軍は、F-4戦闘機やF-105戦闘爆撃機を、海軍は空母を増派し、航空戦力を強化しました。戦略航空軍団もB-52爆撃機を投入し、北ベトナムへの空爆を開始しました。

4月5日、アメリカ空軍は「フリーダムトレイン」と名付けられた作戦を開始し、北緯20度線以北への戦術爆撃を始めました。4月10日には、B-52による初めての大規模爆撃が実施され、北ベトナムの石油貯蔵施設が攻撃されました。

ポケットマネー作戦

南ベトナム軍の防衛線が崩壊しつつある中、アメリカ軍はより強力な作戦を必要としていました。そこで計画されたのが「ポケットマネー作戦」です。この作戦は、北ベトナムの主要な港湾であるハイフォンに機雷を敷設し、海上からの物資輸送を完全に遮断することを目的としていました。

5月8日、アメリカ海軍の航空機がハイフォン湾に機雷を投下し、北ベトナムの海上封鎖を開始しました。この作戦は、アメリカ国民に「殺戮を止めるには、無法者の北ベトナムから武器を取り上げるしかない」と説得する狙いもありました。機雷は投下から5日後に起動され、北ベトナムの海上輸送は完全に麻痺しました。

ラインバッカー作戦の開始

「ポケットマネー作戦」と並行して開始されたのが、ラインバッカー作戦です。この作戦は、北ベトナムの鉄道網、物資貯蔵施設、防空網を徹底的に破壊することを目的としていました。5月10日、アメリカ軍は、ハノイ周辺の鉄道操車場や橋梁に対して大規模な爆撃を開始しました。

ラインバッカー作戦では、レーザー誘導爆弾などの精密誘導兵器が初めて大規模に投入され、北ベトナムの戦略目標を効果的に攻撃することができました。北ベトナム空軍も反撃を試みましたが、アメリカ軍の圧倒的な戦力と優れた戦術の前に、大きな損害を被りました。特に、アメリカ海軍はトップガンによる訓練とルース・デュース戦術を採用し、キルレシオで圧倒的な優位を築きました。

作戦は、アメリカ軍が北ベトナムの補給路を遮断することに成功し、北ベトナム軍の攻勢は鈍化していきました。5月から6月にかけて、北ベトナム軍の前線への物資輸送は大幅に減少しました。また、ラインバッカー作戦は、アメリカ軍の航空戦術に大きな変化をもたらし、精密誘導兵器を用いた近代的な航空作戦の先駆けとなりました。

パリ平和会議とパリ協定

北ベトナム軍の攻勢の失速と北ベトナムの荒廃は、北ベトナムを和平交渉のテーブルに着かせました。アメリカ軍は10月23日に北緯20度以北への爆撃を停止し、ラインバッカー作戦は終了しました。

ラインバッカー作戦は、ベトナム戦争における転換点となりました。この作戦は、アメリカ軍が北ベトナムに大きな打撃を与え、北ベトナムを和平交渉へと向かわせる大きな要因となりました。ただし、その後も和平交渉は難航し、アメリカ軍は再び爆撃を開始します(ラインバッカーII作戦)。しかし、最終的にアメリカ軍は、パリ和平協定を締結し、ベトナム戦争から撤退することになりました。

ラインバッカー作戦の損害

ラインバッカー作戦におけるアメリカ軍の損害は、航空機134機（戦闘による損失104機、事故による損失30機）に上りました。一方、北ベトナム軍の損害は、MiG戦闘機を中心とした航空機が多数撃墜されたとされています。

ラインバッカー作戦は、ベトナム戦争の戦局を大きく変え、精密誘導兵器を用いた現代的な航空戦の幕開けを告げる作戦となりました。この作戦の成功は、アメリカの軍事戦略に大きな影響を与え、その後のアメリカ軍の航空作戦のモデルとなりました。

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