ライヴ・イン・クック・カウンティ・ジェイル

『ライヴ・イン・クック・カウンティ・ジェイル』は、アメリカを代表するブルース・ミュージシャン、B.B.キングが1970年に録音し、翌1971年に発表した傑作ライブ・アルバムです。この作品の最も特徴的な点は、その録音場所が一般的なコンサート会場ではなく、イリノイ州シカゴにあるクック郡刑務所であったことです。1970年 9月10日、キングとそのバンドは、収容されている2,117名の受刑者を前に、情熱的なパフォーマンスを披露しました。

刑務所での特別なパフォーマンス

このアルバムは、刑務所という異例の環境で行われたライブの緊張感と、そこで生まれたミュージシャンと聴衆との特別な一体感を捉えています。自由を奪われた人々に向けて奏でられるブルースは、通常のコンサートとは異なる深い感情を帯びて響き渡り、聴く者に強い感銘を与えます。B.B.キングは、自身の魂を込めたギター演奏と歌声で、彼らの心に寄り添い、一時の解放感をもたらしました。

収録内容と演奏

アルバムには、ブルースのスタンダードからキングの代表曲まで、バラエティ豊かな楽曲が収録されています。冒頭の「イントロダクション」に始まり、「エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース」「ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット」といったお馴染みのナンバーが続きます。特に、ヒット曲「スリル・イズ・ゴーン」や、初期の代表曲を含む「スリー・オクロック・ブルース／ダーリン・ユー・ノウ・アイ・ラヴ・ユー」のメドレーは、聴きどころの一つです。

バンドメンバーの演奏も素晴らしく、B.B.キングの泣き叫ぶようなギター「ルシール」の音色と、感情豊かなヴォーカルを中心に、洗練されつつも熱気に満ちたアンサンブルが展開されます。長年キングを支えてきたサニー・フリーマンのドラミングは、その的確なリズムでライブの推進力となり、ジョン・ブラウニング（トランペット）やルイス・ヒューバート（テナー・サクソフォーン）らのホーンセクションも、楽曲に彩りを加えています。

主な収録曲は以下の通りです：

イントロダクション
エヴリデイ・アイ・ハヴ・ザ・ブルース
ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット
ウォーリー、ウォーリー
メドレー：スリー・オクロック・ブルース／ダーリン・ユー・ノウ・アイ・ラヴ・ユー
スウィート・シックスティーン
スリル・イズ・ゴーン
プリーズ・アクセプト・マイ・ラヴ

参加ミュージシャン：

B.B.キング - ボーカル、ギター
ロン・レヴィ - ピアノ
ウィルバート・フリーマン - ベース
サニー・フリーマン - ドラムス
ジョン・ブラウニング - トランペット
ルイス・ヒューバート - テナー・サクソフォーン
* ブッカー・ウォーカー - アルト・サクソフォーン

反響と評価

本作は発表後、商業的にも大きな成功を収めました。アメリカの権威ある音楽チャート、ビルボードでは、総合アルバム・チャートのBillboard 200で最高25位を記録。さらに特筆すべきは、R&Bアルバム・チャートにおいて、B.B.キングにとってキャリアで唯一となる首位を獲得したことです。日本でも独自の反響があり、オリコンLPチャート（1970年から1989年の集計期間）で94位となり、彼のアルバムとしては唯一のトップ100入りを果たしています。

批評家からの評価も非常に高く、オールミュージックのCub Kodaはこの作品に満点の5点を与え、キングの代表的なライブ盤『ライヴ・アット・ザ・リーガル』と並び立つ傑作であると称賛しました。ローリング・ストーン誌のジョン・ランドーも、1971年のレビューでキングのギター・プレイの一貫した好調さと、サニー・フリーマンのドラムを聴きどころとして挙げています。さらに、同誌が選出した「オールタイム・グレイテスト・ライブ・アルバム50」では40位にランクインするなど、音楽史における重要なライブ記録として位置づけられています。

刑務所という特殊な場所で、感情を込めて演奏されたこのライブ・アルバムは、単なる音楽作品としてだけでなく、社会的な側面も含めて多くの人々に語り継がれる一枚となっています。B.B.キングの真髄が凝縮された、魂を揺さぶる名盤です。

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