ラウダ航空004便墜落事故

ラウダ航空004便墜落事故：空の安全への教訓

1991年5月26日、ラウダ航空004便（ボーイング767-300ER）がタイ上空で空中分解し、乗員乗客223名全員が死亡するという痛ましい事故が発生しました。香港発ウィーン行きの004便は、バンコクを経由し、離陸後間もなく悲劇に見舞われました。

事故の概要

離陸からわずか数分後、コックピットの表示ランプに異常を示す警告灯が点滅。それはスラストリバーサー（逆噴射装置）の油圧隔離弁の異常を示すものでした。クイック・リファレンス・ハンドブックには「更なるシステム故障が発生すると飛行中に（リバーサーが）動作することがある」と記載されていましたが、機長は表示が点滅していること、警告が「Advisory（助言）」レベルであったことから、これを軽視しました。

しかし、その約10分後、副操縦士が「逆噴射装置が作動」と叫び、直後に激しい振動と異音が機体を襲います。高度約7,500メートル、速度マッハ0.78で飛行中、左エンジンのスラストリバーサーが突然作動したのです。これにより主翼の揚力が大幅に低下し、機体は制御不能に陥りました。機長は燃料供給を停止するなどの対応を試みましたが、機体は急降下し、空中分解。乗員乗客223名全員が犠牲となりました。

事故原因の究明

事故調査は、機体の広範囲な残骸の散乱と、事故現場への部外者の立ち入りによる証拠品の散逸により困難を極めました。当初、テロ説も浮上しましたが、ラウダ航空のオーナー、ニキ・ラウダはテロ説に懐疑的であり、回収された証拠もテロ説を否定しました。

フライトレコーダー（FDR）は損傷が激しくデータ解析できませんでしたが、コックピットボイスレコーダー（CVR）は回収され、事故当時の状況を把握する上で重要な役割を果たしました。また、エンジン電子制御装置（EEC）の不揮発性メモリに残されたデータも、事故原因の推定に役立ちました。

調査の結果、スラストリバーサーの誤作動が事故の直接的な原因である可能性が高いことが判明しました。スラストリバーサーの作動には複数の安全機構が備わっていますが、配線系統のショートなどが原因で、これらの機構が正常に機能しなかった可能性が指摘されました。しかし、決定的な証拠は見つからず、公式にはスラストリバーサーが展開した正確な原因は「不明」とされました。

ニキ・ラウダの尽力

ラウダ航空のオーナーであったニキ・ラウダは、事故原因の究明に奔走しました。ボーイング社に対し、事故機の設計上の問題点を指摘し、徹底的な調査を要求しました。当初、ボーイング側はラウダの訴えに耳を傾けませんでしたが、ラウダの粘り強い交渉の結果、ボーイングは再調査を実施。その結果、スラストリバーサー作動時の主翼揚力減少が、当初の見積もりよりもはるかに大きいことが判明しました。

ラウダは、ボーイングが提示したシミュレーター試験の結果にも疑問を呈し、自らシミュレーターを操作して試験に臨みました。その結果、ラウダは操縦を回復することができず、ボーイングに事故責任を認めさせました。

航空安全への教訓

ラウダ航空004便の事故は、たとえ型式証明を取得している航空機であっても、高高度・高速度でスラストリバーサーが誤作動した場合、安全な操縦が極めて困難になることを示しました。この事故を教訓に、航空安全基準が見直され、スラストリバーサーの誤作動を防ぐための安全機構が強化されました。また、パイロットに対する訓練内容も改善され、異常事態への対応能力向上が図られました。

ラウダ航空004便の事故は、航空業界に大きな衝撃を与え、安全に対する意識を向上させる契機となりました。事故で犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、この事故の教訓を胸に、より安全な空の旅を実現していくことが私たちの使命です。

参考文献

“Lauda Air B767 Accident Report” (英語). Aircraft Accident Investigation Committee (Thailand) (1993年7月21日)
外山智士ホームページ 事故No,19910526a
ASN Aircraft accident Boeing 767-3Z9ER OE-LAV Phu Toey（英語） - Aviation Safety Network
メーデー!:航空機事故の真実と真相 第12シーズン第2話「ラウダ航空004便」

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