ラクターゼ

ラクターゼ

ラクターゼ（Lactase）は、生体内で重要な役割を果たす酵素の一つです。化学的には、グリコシド結合を加水分解する酵素群であるグリコシドヒドロラーゼに分類され、特にβ-ガラクトシダーゼファミリーの一員とされています。その主要な機能は、乳製品などに含まれる二糖類であるラクトース（乳糖）を、構成成分である単糖類のガラクトースとグルコースに分解することです。

生体内での働きと重要性

ヒトの場合、ラクターゼは主に小腸の上皮細胞に存在する腸絨毛に多く見られます。ここでラクターゼが働くことで、摂取された乳糖はガラクトースとグルコースに分解されます。これらの単糖類は、小腸から容易に吸収されてエネルギー源として利用されます。このため、ラクターゼは乳糖を含む食品の消化吸収に不可欠な酵素と言えます。

ラクターゼの活性が低下したり、欠乏したりすると、摂取した乳糖が十分に分解されずに大腸に到達します。大腸に存在する腸内細菌がこの未分解の乳糖を発酵させることにより、ガスが発生したり、浸透圧の影響で水分が大腸内に引き込まれたりします。これが、腹部膨満感、腹痛、下痢といった消化器症状を引き起こす「乳糖不耐症」の原因となります。乳糖不耐症の症状を軽減するため、食品に含まれる乳糖をあらかじめ分解した製品や、ラクターゼを主成分とする錠剤などの製剤も市販されています。

酵素としての特性

ラクターゼは、その触媒活性を最大限に発揮するために特定の環境条件を必要とします。一般的に、酵素の種類によって至適温度や至適pHが異なりますが、ラクターゼの最適温度は約48℃、最適pHは約6.5であることが知られています。これらの条件は、生体内での働きや工業的な利用において重要な指標となります。

工業分野での応用

ラクターゼは、その特異的な作用を利用して食品工業を中心に幅広く活用されています。工業的に用いられるラクターゼは、Kluyveromyces marxianus や Kluyveromyces lactis といった特定の酵母、あるいは Aspergillus niger や Aspergillus oryzae といった糸状菌（カビ）などの微生物を培養することで大量に生産されます。

主な用途の一つとして、乳糖不耐症の人々でも安心して飲める「乳糖分解牛乳」の製造があります。牛乳に含まれる乳糖をラクターゼで分解しておくことで、消化器症状のリスクを低減できます。

また、アイスクリームの製造にもラクターゼは利用されます。これは、二糖類であるラクトースよりも、その分解生成物である単糖類のガラクトースとグルコースの方が甘味が強いという性質を利用したものです。ラクターゼ処理により、同じ糖濃度でもより強い甘味が得られるため、砂糖の使用量を抑えたり、風味を向上させたりすることが可能になります。さらに、乳清（ホエイ）に含まれる乳糖を分解し、甘味のあるシロップ状に変換するプロセスにもラクターゼが活用されています。

このように、ラクターゼは生体内の消化吸収に不可欠な酵素であると同時に、食品産業においても様々な形で人々の食生活を豊かにするために利用されています。

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