ラクトースシンターゼ

ラクトースシンターゼ (Lactose synthase)

乳糖合成酵素、ラクトースシンターゼ（EC 2.4.1.22）は、哺乳類の乳腺において、乳汁の主要な糖成分であるラクトース（乳糖）の生成に特異的に関与する酵素系です。この酵素は、単一のポリペプチドではなく、機能的に異なる二つのタンパク質サブユニットから構成される複合体として働く点が特徴です。

酵素の構成要素

ラクトースシンターゼの機能発現には、以下の二つのサブユニットが不可欠です。

1. 触媒サブユニット（コンポーネントA）: β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼIとして知られる酵素であり、一般的にはN-アセチルラクトサミンシンターゼとも呼ばれます。この酵素単独では、主にUDP-ガラクトースからのガラクトース基をN-アセチルグルコサミンに転移させ、N-アセチルラクトサミンを生成する反応を触媒します。これは多くの組織で見られる一般的な糖転移酵素です。

2. 調節サブユニット（コンポーネントB）: α-ラクトアルブミンです。このタンパク質は、単独では酵素活性を持ちませんが、触媒サブユニットであるβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼIと結合することにより、その基質特異性を大きく変化させる働きを持ちます。特に、N-アセチルグルコサミンに対する親和性を低下させ、代わりにグルコースに対する親和性を劇的に向上させます。

乳腺において両サブユニットが存在し、複合体を形成することで初めて、グルコースをアクセプター（受容体）とする特異的なガラクトース転移反応が可能となり、ラクトースが効率よく合成されるのです。

触媒反応

ラクトースシンターゼ複合体は、以下の化学反応を触媒します。


UDP-α-D-ガラクトース + D-グルコース ⇌ UDP + β-D-ガラクトピラノシル-(1→4)-D-グルコース


この反応において、UDP-ガラクトースからガラクトース部分が遊離し、グルコースの炭素原子4位の水酸基にβ-1,4グリコシド結合として転移します。生成物であるβ-D-ガラクトピラノシル-(1→4)-D-グルコースがラクトースです。この反応は可逆的ですが、生体内では主にラクトース合成の方向へ進行します。

α-ラクトアルブミンが存在しない場合、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼIは主にN-アセチルグルコサミンを基質として利用するため、ラクトースではなくN-アセチルラクトサミンが生成されます。α-ラクトアルブミンが触媒サブユニットの適切な部位に結合することで、基質結合部位の構造が変化し、グルコースがより効率的に結合できるようになるメカニズムと考えられています。

生理的意義

ラクトースは哺乳類における主要な二糖であり、新生児にとって重要なエネルギー源となります。ラクトースシンターゼは、この乳糖合成の最終段階を触媒する鍵酵素であり、特に授乳期の哺乳類乳腺で高レベルに発現します。α-ラクトアルブミンの合成はプロラクチンなどのホルモンによって制御されており、これにより授乳期に特異的なラクトース合成能が発現します。このように、ラクトースシンターゼの活性は哺乳類の生命維持と発育において極めて重要な役割を担っています。

EC番号は2.4.1.22として登録されており、関連する情報はMeSHなど生物医学データベースで参照可能です。

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