ラシッド・ドスタム

アブドゥル＝ラシード・ドスタム：激動のアフガニスタンを生き抜いた将軍

アブドゥル＝ラシード・ドスタム（Abdul Rashid Dostum）は、1954年頃に生まれたアフガニスタンの軍人、政治家です。その生涯は、アフガニスタンの激動の歴史と深く結びついています。ソ連のアフガニスタン侵攻、内戦、ターリバーン政権の台頭と崩壊、そしてその後の政治的混乱期において、ドスタムは常に重要な役割を果たしてきました。その経歴は複雑で、数々の変節と武力闘争に彩られており、毀誉褒貶の激しい人物として知られています。

生い立ちとソ連のアフガニスタン侵攻

ドスタムは、ジョウズジャーン州の農村地帯で生まれました。1970年代初めには空挺部隊に召集され、その後、石油採掘労働者として働いていました。1979年に人民民主党に入党し、パルチャム派に属しました。1980年代には、ムハンマド・ナジーブッラー政権下で軍務に就き、第53歩兵師団長を務めました。この間、ソ連KGBの将校課程を修了しています。

アフガニスタン内戦

1992年、ナジーブッラー政権が崩壊すると、ドスタムは一時的にラッバーニー政権に協力しました。しかし、1994年には離反し、グルブッディーン・ヘクマティヤールと共同で首都カーブルを攻撃しました。その後、ターリバーンが台頭すると政府側につき、1997年にはマザーリシャリーフでターリバーンを撃退しました。しかし、部下であったアブドゥル＝マーリクの裏切りにより失脚し、トルコに亡命しました。その後、復帰するも、1998年に再びターリバーンに敗れ、再びトルコに亡命せざるを得なくなりました。

アメリカのアフガニスタン侵攻と新政権下

2001年、アメリカのアフガニスタン侵攻に伴い、ドスタムは北部同盟の司令官として帰国し、マザーリシャリーフを奪還しました。ターリバーン政権崩壊後、ドスタムは国防次官などを歴任しましたが、軍閥解体が進められる中で、自身の勢力維持に奔走しました。2008年には、かつての同盟者であったアクバル・バイを拉致・監禁し、暴行を加えたとして非難を浴びました。また、2001年のダシュテ・ライリ虐殺に関与した疑いも指摘されています。

2014年の大統領選挙では、アシュラフ・ガニーの第一副大統領候補として当選し、第一副大統領に就任しました。しかし、2016年には元知事への性的暴行事件に関与したとして訴えられ、再びトルコへ出国しました。その後、帰国するも、政府との対立は深まり、2019年の大統領選挙ではアブドラ・アブドラを支持しました。2020年、ガニー大統領の再選が確定すると、ドスタムは第一副大統領を退任しましたが、元帥の称号を授与されました。

ターリバーンの全土掌握と亡命

2021年、アメリカ軍の撤退に伴い、ターリバーンが勢力を拡大すると、ドスタムは再び国外へ逃亡しました。現在はトルコに滞在しており、ターリバーンに対抗する政治勢力として活動を続けています。2022年には、「国民抵抗高等評議会」を設立し、ターリバーン政権に包摂的な政権樹立を呼びかけましたが、拒否された場合は武力闘争も辞さない姿勢を示しています。

人物像

ドスタムは、数々の戦争犯罪や残虐行為、変節を繰り返してきた人物として悪名高い一方で、世俗主義的な環境で育ち、宗教的に過激なところはないとも評価されています。また、旧共産政権下の軍人や官僚にとっては、頼れる存在であるという側面も持ち合わせています。彼の行動は、アフガニスタンの複雑な政治状況と民族対立を反映しており、その評価は分かれています。

家族と叙勲

ドスタムは妻帯しており、一男（ボトゥール・ドスタム）をもうけています。過去には、アフガニスタン英雄を二度受章しています。

ドスタムの生涯は、アフガニスタンの激動の歴史そのものであり、その複雑な経歴は、アフガニスタンの政治状況と社会構造を理解する上で重要な手がかりとなります。

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