ラッシュアジャスター

ラッシュアジャスター：エンジンの静粛性とメンテナンスフリー化を支える技術

ラッシュアジャスター（Hydraulic Lash Adjuster, HLA）は、エンジンのバルブとロッカーアーム（またはカム）間のクリアランスを自動的に調整する装置です。この機構により、バルブとロッカーアームの接触による騒音や、クリアランスのずれによる性能低下を防ぎ、メンテナンスフリー化に大きく貢献しています。

ラッシュアジャスターの仕組み

ラッシュアジャスターは、主に円筒形のボディ、プランジャー、チェックボール、スプリングで構成されます。プランジャーはボディ内を摺動し、ロッカーアームからの力をオイル圧力に変換します。チェックボールは、プランジャーとボディ底部の間に位置し、オイルの漏れを防ぐ役割を果たします。

エンジンオイルはプランジャー内に供給され、ロッカーアームとの間に隙間が生じると、プランジャーが押し上げられ、ボディ内のオイル圧力が高まります。この圧力によってプランジャーが押し上げられ、バルブクリアランスが自動的に調整されます。

ラッシュアジャスターの歴史

ラッシュアジャスターは、1930年代初頭のピアース・アローが初採用したとされています。自動車への本格的な採用は1980年代以降で、日本車では1950年代から採用が始まり、1980年代以降はローラーロッカーアームとの組み合わせで静粛性の向上に貢献しました。近年では、可変バルブタイミング機構などとの連携も進んでいます。

ラッシュアジャスターの種類

ラッシュアジャスターは、バルブトレーンの形式によって大きく3種類に分類されます。

シーソー式ロッカーアーム用: 最初に登場した形式で、ロッカーアームのバルブ側に内蔵されます。オイル供給はピボットシャフトから行われます。高回転域でのポンプアップが起こりやすい点が弱点です。
スイングアーム式ロッカーアーム用: シリンダーヘッド側の支点に取り付けられ、固定された状態で動作するため、高回転域でもポンプアップが起こりにくいのが特徴です。近年、省燃費性の観点からローラーロッカーアームとの組み合わせで多く採用されています。
直打式OHC用: シム式バルブリフターと交換する形で取り付けられます。ヘッド高を抑えられるメリットがありますが、オイル容量が少なく、高回転域でのポンプアップが起こりやすいです。

ラッシュアジャスターの欠点

ラッシュアジャスターは多くのメリットを持つ一方、いくつかの欠点も存在します。

オイル漏れ: 駐車中にオイルが抜けて再始動時に異音が発生することがあります。
ポンプアップ: 高回転域でオイルを過剰に吸い込み、バルブクリアランスが負になり、バルブが完全に閉じなくなる現象です。
重量増加: アジャストスクリューやシムに比べて重量が大きいため、高回転域での影響が懸念されます。

これらの欠点は、エンジンオイルの粘度や品質に大きく依存するため、メーカー指定のオイルを使用することが重要です。

ラッシュアジャスターの交換

ラッシュアジャスターはメンテナンスフリーとされていますが、オイル漏れや動作不良が発生した場合は交換が必要です。交換時には、内部のオイル漏れやチェックボールの作動不良がないか確認する必要があります。また、分解可能な場合は内部の清掃も重要です。

チューニングにおけるラッシュアジャスター

チューニングカーやモータースポーツでは、重量や高回転域での信頼性から、シム式ソリッドリフターなどに交換される場合があります。この場合、バルブの同時交換も必要となることがあります。

まとめ

ラッシュアジャスターは、エンジンの静粛性とメンテナンスフリー化に大きく貢献する重要な部品です。その仕組みや種類、メリット・デメリットを理解することで、より適切なメンテナンスやチューニングを行うことができます。

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