ラリー・レヴァン

ラリー・レヴァン（本名ローレンス・フィルポット、1954年 7月20日 - 1992年 11月8日）は、アメリカ合衆国ニューヨーク州ブルックリンが生んだ、革新的なDJ、音楽プロデューサー、そして作曲家です。1973年、18歳でDJとしてのキャリアをスタートさせると、その類稀な才能で瞬く間に注目を集めました。

伝説の拠点：パラダイス・ガレージ

彼の名声を不動のものとしたのは、1977年から1987年までニューヨークに存在した伝説的なクラブ、「パラダイス・ガレージ（Paradise Garage）」です。ラリー・レヴァンをイメージして特別に設計されたこの場所で、彼はメインDJとして10年以上にわたりプレイし続けました。単なるナイトクラブではなく、音楽の神殿と呼ぶにふさわしいこの空間で、ラリーはサウンドシステムから照明、その他あらゆる細部に至るまで心を配り、訪れる人々に深い癒しと解放をもたらしました。その結果、熱狂的な支持者を生み出し、「ガラージュ」あるいは「ガレージ・ミュージック」として知られる独自の音楽ジャンルを確立するに至りました。

生い立ちと友情

ローレンス・フィルポットとして生まれた彼は、母親の姓であるレヴァンを名乗るようになります。若い頃はブルックリンのエラスムス・ホール高校に通いましたが、その個性的な振る舞いから問題を起こすことも少なくありませんでした。しかし、ハーレムのドラァグボールシーンに居場所を見出し、ここで後にハウスミュージックのパイオニアとなる盟友、フランキー・ナックルズと出会います。二人は共に、アンダーグラウンドのゲイパーティーシーンで音楽への深い造詣を深め、ニューヨークのコンチネンタル・バスでDJキャリアの第一歩を踏み出しました。公然とゲイであることをカミングアウトしていた彼らは、当時の多様な文化の中でその才能を開花させていきます。やがてフランキー・ナックルズはシカゴへ移りますが、ラリー・レヴァンはニューヨークに留まり、様々なクラブで経験を積み重ね、最終的にパラダイス・ガレージでその名声を確立しました。

独自の音楽性と技術

ラリー・レヴァンは、独学で音響技術を習得した専門家でもありました。エンジニアのリチャード・ロングと共同でパラダイス・ガレージに構築した「レヴァンス（Levans）」と呼ばれるサウンドシステムは、大音量でありながら驚くほどクリアな音質を実現し、ダンスフロアのどこにいても快適に会話ができたと言われています。彼はまた、クラブの照明デザインにも深く関与し、音響と照明を巧みに操ることで、フロアにいる人々を自在に引き込みました。彼の音楽的な趣味は非常に幅広く、ゴスペル、レゲエ、フィラデルフィア・ソウル、ユーロディスコからロック、ポストパンク、アンビエントまで、あらゆるジャンルをミックスし、ダンスミュージックの可能性を大きく広げました。効果音やオーディオ操作を駆使し、まるで生きているかのように音を操る彼のDJプレイは、常に予測不可能でリスナーを魅了しました。

DJとしての才能に加え、ラリーは音楽プロデューサー、リミキサー、作曲家としても数多くの作品を手がけました。彼のプロデュースやリミックスは多くのダンスヒットを生み出し、その中には日本のアイドル、島田奈美の楽曲のリミックスも含まれています。また、ニューヨーク・ピーチ・ボーイズ名義で作曲活動も行いました（当初はビーチボーイズとの混同を避けるため、名前変更を余儀なくされました）。

後期の苦悩と遺産

1987年にパラダイス・ガレージが閉鎖された後、ラリーは薬物の問題に苦しみ、多くのレコードを売り払うなど困難な時期を過ごします。1988年にはクラブ「THE CHOICE」でDJとして復帰しますが、かつての輝きを取り戻すことは難しく、ドラッグと病気に悩まされ続けました。そして1992年 11月8日、わずか38歳の若さで心内膜炎による心疾患のため、極貧の中でこの世を去りました。

彼の死後も、その音楽と影響力は色褪せません。彼が創出した「ガラージュ」は現在も根強い人気を持つ音楽ジャンルであり、ニューヨーク・ハウスやディープ・ハウスなど、現代のハウスミュージックの源流として不可欠な存在です。また、国内外の多くの有名DJたちが、パラダイス・ガレージで彼のプレイを見て衝撃を受け、DJを志すきっかけになったと語っています。史上最も影響力のあるDJの一人と広く認められており、2004年にはダンス音楽の殿堂入りを果たしました。特に日本のシーンにも大きな影響を与え、北海道には短期間滞在した経験があり、そこでガラージュの洗礼を受けたDJが育ちました。音響の専門家としても知られ、パラダイス・ガレージ閉鎖後にロンドンにオープンした巨大クラブ、ミニストリー・オブ・サウンドのサウンドシステム設計にも貢献しています。

日本への足跡

ラリー・レヴァンは何度か日本を訪れています。初来日は1990年6月、翌1991年にも来日し、東麻布のJ TRIP BAR ENDMAXでDJを行いました。1992年には自身の誕生日を日本で迎えたいと申し出があり、盟友フランソワ・ケヴォーキアンと共に3度目の来日を果たし、「The Harmony Tour」と題したジャパンツアーを敢行しました。芝浦GOLD、札幌（Wall、現在のPlastic Theater）、神戸、大阪でプレイし、特に芝浦GOLDでのプレイは貴重なミックス音源として現存しています。札幌では7月と9月にプレイしました。生前、彼は特別なパーティーでは、日本の刃物職人が作った「光悦（Koetsu）」という高級フォノカートリッジを愛用していたことでも知られています。

彼の遺した作品は、今も多くのリスナーやDJに愛され続けています。主な作品には「Definitive Salsoul」や、パラダイス・ガレージでのライブ録音盤「Live at the Paradise Garage」などがあります。

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