ランカスター伯爵

ランカスター伯爵：イングランド史を彩る名門貴族の軌跡

ランカスター伯爵は、13世紀に創設されたイングランド貴族の爵位であり、その歴史は、イングランド王室との密接な関わりの中で、政治・経済・社会に大きな影響を与えてきました。

ランカスター家の創始

ランカスター伯爵の歴史は、ヘンリー3世の次男エドマンド（クラウチバック）に始まります。1267年、エドマンドはランカスター地域に広大な所領を与えられ、ランカスター伯爵に叙されました。彼はすでにレスター伯とダービー伯の爵位も有しており、その所領はイングランド北西部を中心に、広大な範囲に及ぶものでした。

王室との対立と爵位の変遷

2代ランカスター伯トマスは、エドワード2世の寵臣政治に反抗し、バラブリッジの戦いで国王に挑みましたが敗北し、処刑されました。これにより、爵位と所領は一時没収されましたが、エドワード3世の時代に、トマスの弟ヘンリーに継承が認められました。

3代伯ヘンリーの息子である4代ランカスター伯ヘンリー・オブ・グロスモントは、ダービー伯、リンカーン伯にも叙され、さらにランカスター公にも叙されました。しかし、彼には男子がなく、娘のブランシュが女子相続人となりました。

ブランシュはエドワード3世の四男ジョン・オブ・ゴーントと結婚し、ジョンは妻を通じてランカスター伯を含む複数の伯爵位と広大な所領を継承しました。これにより、ジョン・オブ・ゴーントはイングランド最大の貴族となり、その領地はイングランド全土、さらにはウェールズにも及ぶほどでした。

ランカスター家の隆盛と王位簒奪

ジョン・オブ・ゴーントの長男ヘンリー・ボリングブルックは、ヘレフォード伯の女子相続人と結婚し、さらに広大な領地を獲得しました。父の死後、リチャード2世はランカスター家の勢力を恐れ、ヘンリーを国外追放にし、所領を没収しました。しかし、ヘンリーは反撃し、リチャード2世を破って王位を簒奪し、ヘンリー4世として即位しました。これにより、ランカスター伯位を含む爵位は王冠に統合されることとなりました。

ランカスター伯爵の歴史は、イングランドの歴史そのものであり、王室との密接な関係、権力闘争、そして広大な所領の変遷を通して、中世イングランド社会の姿を鮮やかに描き出しています。

参考文献

青山吉信 編『イギリス史〈1〉先史〜中世』山川出版社〈世界歴史大系〉、1991年。ISBN 978-4634460102。
尾野比左夫『バラ戦争の研究』近代文芸社、1992年。ISBN 978-4773311747。

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