ランスロ＝聖杯サイクル

ランスロ＝聖杯サイクルについて

ランスロ＝聖杯サイクル（Lancelot-Grail）は、中世フランスのアーサー王伝説を描いた散文作品で、主に13世紀初期に執筆された5巻から成り立っています。この作品は、聖杯探求の物語や、騎士ランスロットと彼の愛人グィネヴィアとのロマンスを中心に展開されており、アーサー王伝説の中でも特に重要な位置を占めています。著者に関しては不明な点が多く、ウォルター・マップの作だという説は否定されています。彼は作品が成立する前に亡くなっているためです。

聖杯サイクルの背景

ランスロ＝聖杯サイクルは、アーサー王伝説を新たに解釈し、聖杯の物語をさらに深め、騎士たちの物語にもキリスト教的なテーマを取り入れています。特に、聖杯クエストに関連する物語は、アーサーとマーリンの死が物語の中に加えられ、「ブルターニュもの」に宗教的・歴史的な色彩を持たせており、古代のブリトン人の物語にも回帰していると言えるでしょう。

この作品の中で、マーリンの誕生は旧約聖書に基づく要素を反映しており、悪魔を父に持ち、罪を悔いて洗礼を受けた人間を母として描かれています。この神秘的な要素は、ロベール・ド・ボロンの作品とも一致し、マーリンは予言者としての能力を養っているという特徴があります。

サイクルの構成

このサイクルは、以下の5つの作品から成り立っています：

1. 聖杯の由来（Estoire del Saint Grail）: アリマタヤのヨセフが聖杯をブリテンに持ち込む物語。
2. メルラン物語（Estoire de Merlin）: マーリンと若き日のアーサーの冒険を描いています。この巻には『メルラン続伝』も含まれ、アーサーの若き日の冒険がさらに詳述されています。
3. ランスロ本伝（Lancelot propre）: この巻は最も長く、サイクル全体の約半分を占めています。ランスロットの冒険や、グィネヴィアとの不義が描かれています。
4. 聖杯の探索（Queste del Saint Graal）: 聖杯を求める旅が中心で、ガラハッドによってこの探求が完遂されます。
5. アルトゥの死（Mort Artu）: モードレッドによってアーサーが死に、王国が崩壊する様子が描かれています。

ランスロ＝聖杯サイクルは、その後の文学にも大きな影響を与え、多くの後期流布本サイクルが生まれる土台となりました。これらの後期作品は、流布本サイクルを基にしつつも異なる視点や物語を提供しています。

日本語訳と参考文献

この作品の日本語訳には、複数の主な翻訳が存在します。新倉俊一による『フランス中世文学集』全4巻（白水社、1990年～1996年）には、ランスロ＝聖杯物語群の「アーサー王の死」が収録されています。また、天沢退二郎による『聖杯の探索 作者不詳・中世フランス語散文物語』（人文書院、1994年）も、聖杯の探求の部分のみが翻訳されています。

これらの作品は、中世特有の文化や信仰を反映しており、現代においてもアーサー王伝説の理解を深めるための貴重な資料といえます。

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