後期流布本サイクル

後期流布本サイクルについて

後期流布本サイクル（Post-Vulgate Cycle）は、アーサー王物語に関連する古フランス語の散文作品群の中で特に重要なものであり、その成立はおそらく1230年から1240年の間とされています。このサイクルは、既存の『ランスロ＝聖杯サイクル』を基に再構成されており、新たな物語要素が追加され、不要な部分が削除されています。特にこの作品は、聖杯探求を中心テーマとしながら、ランスロットとグィネヴィアの不義にはあまり重点を置いていないことが特徴です。

構成と特徴

後期流布本サイクルは、以下の四つの巻から構成されています。これらの巻は、既存の『ランスロ＝聖杯サイクル』からの要素を多く含みながらも、異なる視点やストーリー展開を持っています。

1. 聖杯の由来（Estoire del Saint Grail）
この巻では、アリマタヤのヨセフが聖杯をブリテンに持ち込む物語が語られ、流布本サイクルとの関連が強い内容が描かれています。

2. メルラン物語（Estoire de Merlin）
語りのスタイルは前のサイクルとほぼ同じですが、アーサー王の若き日々やマーリンが関与する新たな冒険が描かれています。また、モードレッドの誕生やアーサーが湖の乙女からエクスカリバーを受け取るシーンなど、前期サイクルにはない新しい要素が追加されています。

3. 聖杯の探索（Queste del Saint Graal）
この巻では、騎士たちが聖杯を探す冒険が描かれますが、その内容や物語のトーンは従来の流布本サイクルとは異なります。騎士ガラハッドやパーシヴァル、ボールスが聖杯を求めて旅をします。この巻には、他の物語からの要素、特に『散文のトリスタン』のキャラクターたちが再登場します。

4. アルテュの死（Mort Artu）
最終巻では、モードレッドによるアーサー王の死と王国の崩壊が描かれています。内容は前期流布本と類似しているものの、前の巻とのつながりを意識した描写がなされています。

後期流布本サイクルは完全な形では残っておらず、フランス語、カスティーリャ語、ポルトガル語の断片を基に復元されていますが、その文化的意義は非常に高く、トマス・マロリーによるアーサー王物語の重要な参考資料ともなっています。この作品群は、アーサー王物語の中でも特にクリスチャン的な世界観を強く打ち出し、物語の中の非道徳的な要素を明確に批判する姿勢が見られます。

アーサー王伝説における後期流布本サイクルは、聖杯探求というテーマを通じて信仰や道徳に触れながら、数々の冒険物語を展開させています。その影響力は今なお色褪せることなく、文学や芸術に多くの影響を与え続けています。

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