ランドン・ロナルド

サー・ランドン・ロナルド

サー・ランドン・ロナルド（Sir Landon Ronald、1873年6月7日 - 1938年8月14日）は、20世紀初頭のイギリスを代表する音楽家です。指揮者、ピアニスト、作曲家、そして教育者として多岐にわたる活動を展開し、特に録音分野における先駆的な業績と、音楽教育への貢献で知られています。

生涯とキャリアの始まり

ロンドンに生まれたロナルドは、1884年に王立音楽アカデミーに入学し、音楽の基礎を学びました。卒業後、1891年にはコヴェントガーデン王立歌劇場のコレペティートルとして実地経験を積み始めます。この歌劇場では、1896年にグノーのオペラ『ファウスト』を指揮して、本格的な指揮者としてのキャリアをスタートさせました。同時期には、オーガスタス・ハリス率いる巡回歌劇団の指揮者も務めるなど、劇場音楽の分野で経験を深めました。また、ピアニストとしても活動し、1894年には当時の著名なソプラノ歌手、ネリー・メルバのアメリカ合衆国への演奏旅行に、伴奏ピアニストとして同行しています。こうした多様な経験が、彼の後の幅広い音楽活動の礎となりました。

指揮活動

劇場での経験を経たロナルドは、オーケストラ指揮者としても頭角を現します。1898年から1902年にかけては、ロンドンで上演されたミュージカル・コメディの指揮を務め、エンターテインメント性の高い音楽にも携わりました。その後、クラシック音楽の分野に進出し、1904年から1907年まではロンドン交響楽団の客演指揮者として活躍しました。1908年には同楽団と共にヨーロッパ各地を巡る演奏旅行を行い、国際的な評価を高めます。キャリアのピークには、主要なオーケストラの要職を歴任しました。1909年から1914年にかけてはロンドン新交響楽団（現在のロイヤル・アルバート・ホール管弦楽団の前身の一つ）の首席指揮者を務め、さらに1916年から1920年にはスコティッシュ・ナショナル管弦楽団の首席指揮者として、それぞれのオーケストラの発展に寄与しました。

教育者として

演奏家・指揮者としての活躍と並行して、ロナルドは音楽教育の分野でも重要な役割を果たしました。1910年から亡くなる1938年まで、彼はギルドホール音楽学校の校長を務めました。この長い在任期間中、学校の運営と発展に尽力し、多くの若手音楽家の育成に貢献しました。イギリス音楽教育界における彼の地位は高く、重鎮として尊敬を集めました。

録音における功績

ランドン・ロナルドは、初期の録音技術を活用した先駆者としても特筆されます。特に有名なのは、1909年に新交響楽団と共に録音したグリーグのピアノ協奏曲です。この録音では、ドイツの巨匠ピアニスト、ヴィルヘルム・バックハウスが独奏を務めており、世界で初めて商業的にリリースされた協奏曲全曲録音の一つとされています。この歴史的な録音は、後にイギリスのパールレーベルなどからCDとして復刻されており、現代でも聴くことができます。また、ピアニストとしても録音を残しており、1900年にはG&T（グラモフォン・アンド・タイプライター、ドイツ・グラモフォンの前身）にショパンの「軍隊ポロネーズ」などを録音しています。こちらも後にCDに復刻されています。さらに、かつて伴奏を務めたソプラノ歌手ネリー・メルバとの共演録音も複数残されており、そこでは伴奏ピアニストとして、あるいは伴奏オーケストラの指揮者として参加しています。これらの録音は、当時の演奏スタイルを知る上で貴重な資料となっています。

作曲活動

ロナルドは作曲家としても活動しており、自身の作品をいくつか遺しています。彼の作品には、交響詩などの管弦楽曲や、多くの歌曲が含まれます。これらの作品は、当時のイギリス音楽の多様性を示す一例と言えるでしょう。

晩年

晩年もロンドンで過ごし、教育活動を中心に精力的に活動を続けましたが、1938年8月14日、その生涯を閉じました。ランドン・ロナルドの遺した業績は、演奏、教育、そして初期の録音技術の発展という多方面にわたり、イギリス音楽史において重要な足跡を残しています。国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）では、彼の作品の一部を閲覧することができます。

もう一度検索