ランバート・シムネル

ランバート・シムネル：王位を夢見た少年の生涯

ランバート・シムネルは、1477年頃生まれのイングランド人です。彼の出自は諸説あり、パン屋、商人、オルガン職人の息子などと言われています。10歳頃、オックスフォードで教育を受けた司祭、ロジャー・サイモン（またはリチャード・シモンズ）が家庭教師となり、礼儀作法を教えました。シムネルは美少年として知られ、サイモンは彼を利用して出世を企んでいたと考えられています。

当時、テューダー朝初期で王権が不安定な時代でした。サイモンはヨーク朝の後継者を担ぎ出すことで王位獲得を狙いました。当初はヨーク公リチャードを名乗らせる計画でしたが、ウォリック伯エドワード（クラレンス公ジョージの息子）がロンドン塔で獄死したという噂を聞き、計画を変更します。ウォリック伯にはリチャード3世から与えられた王位継承権があったため、シムネルをウォリック伯として擁立する方が有利と判断したのです。

サイモンは「ウォリック伯が脱獄した」という噂を広め、シムネルの後見人となり、旧ヨーク派からの支援を取り付けました。アイルランドにはまだヨーク派の支持者が残っており、シムネルをアイルランドに連れて行き、アイルランド総督キルデア伯に紹介しました。ヘンリー7世に反抗的だったキルデア伯は、この策略に賛同し、イングランド侵略に乗り出します。1487年5月24日、シムネルはダブリンのクライストチャーチ大聖堂で「国王エドワード6世」として戴冠しました。

キルデア伯はトーマス・ジェラルディンの指揮下、アイルランド軍を編成しイングランド侵攻を開始します。ヘンリー7世は、本物のウォリック伯がまだロンドン塔に収監されていることを知っていたため、2月2日に彼を公衆の前に現れ、シムネルの偽りを明らかにしました。同時に大規模な恩赦を発布し、過去に反逆した者にも、今後忠誠を誓えば許すという条件を示しました。

一方、リチャード3世の後継者指名を受けていたリンカーン伯ジョン・ド・ラ・ポールは、ヘンリー7世に抵抗してフランドルに亡命していました。彼はシムネルに加担し、「ウォリック伯の脱獄を手伝った」と主張しました。さらに、前年に反乱に失敗し、フランドルに逃亡していたフランシス・ラベル卿とも合流。リチャード3世の姉マーガレット・オブ・ブルゴーニュは、2000人のフランドル傭兵を支援し、マーティン・シュバルツの指揮下、アイルランドに送りました。傭兵らは5月5日アイルランドに到着。ヘンリー7世も軍を召集しました。

シムネル軍（フランドル人とアイルランド人兵士が中心）は1487年6月5日、イングランドのランカシャーに上陸し、一部のイングランド人も加わりましたが、地元貴族の多くは加担しませんでした。6月16日、ストーク・フィールドの戦いでヘンリー7世軍と激突、敗北を喫します。キルデア伯は捕らえられ、リンカーン伯とトーマス・ブロートン卿は処刑されました。ラベル卿は行方不明となり、逃亡したとも言われています。司祭だったサイモンは処刑を免れましたが、終身刑に処せられました。

シムネル自身は、操り人形だったと判断されたのか、罪を許され、宮廷で厨房の仕事（スモークジャック係）に就きました。その後、王室の鷹匠となり、1534年頃亡くなりました。彼の生涯は、王権争奪という激動の時代の縮図として、今も人々の興味を引きつけています。

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