ランベルト・スストリス

ランベルト・スストリス（Lambert Sustris, 1515年頃 - 1591年頃）は、16世紀にヴェネツィアを中心に活動したオランダ出身の画家です。彼はヴェネツィア派の巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオの工房で働き、その画風に大きな影響を受けました。

生涯と画業

スストリスはアムステルダムで生まれましたが、修業時代の詳細については不明な点が多く残されています。しかし、マールテン・ファン・ヘームスケルクやヤン・ファン・スコーレルのもとで絵画の基礎を学んだと考えられています。彼はその生涯の大部分をイタリアで過ごし、1530年代にはヘームスケルクと共にローマに滞在しました。

40歳を過ぎてからヴェネツィアを訪れたスストリスは、ティツィアーノの工房に加わり、風景画を専門とする画家として活躍しました。工房内では「アルベルト・デ・オランダ（オランダのアルバート）」とも呼ばれていたようです。ジョルジョ・ヴァザーリの記録によると、1540年から1543年にかけてパドヴァの宮殿や別荘のフレスコ画装飾に従事しており、パドヴァ近郊のヴィラ・デイ・ヴェスコヴィのフレスコ画は、現在ではスストリスの作品であるとされています。1548年と1550年から1551年には、ティツィアーノに同行してアウクスブルクへ旅行し、肖像画も手がけています。ヴェネツィアに戻ってからは、パルミジャニーノやアンドレア・メルドラの影響を受け、彼の作品はマニエリスム様式、あるいは前バロック様式の特徴を示すようになりました。

スストリスは、ジローラモ・ムジアーノの師としても知られています。ムジアーノの研究者であるパトリツィア・トシーニの指摘によれば、スストリスの作品は、弟子ムジアーノを通じて、16世紀半ばのヴェネツィアにおける景観への関心と、歴史的な主題の背景としての風景画の役割を、ローマへと広める上で重要な役割を果たしました。これは、風景画が単なる背景ではなく、絵画表現において重要な要素として認識されるようになる上で、大きな転換点となったことを示しています。

スストリスには、画家であり建築家でもあったフリードリヒ・スストリスという息子がいました。フリードリヒもまた、父の才能を受け継ぎ、美術の世界で活躍しました。

スタイルと影響

スストリスの作品は、初期のマニエリスム様式と、後の前バロック様式の間で移行期的な特徴を示しています。彼の風景画は、細部まで丁寧に描き込まれており、自然の美しさを巧みに捉えています。また、人物画においても、その繊細な表現力は高く評価されています。彼の作品は、同時代の画家たちに大きな影響を与え、特に風景画の発展に貢献しました。弟子ムジアーノを通じて、ローマへと広まったその影響は、16世紀後半の美術界において重要な役割を果たしました。

代表的な作品

スストリスの作品は、フレスコ画、肖像画、風景画など多岐にわたります。現在確認されている代表的な作品としては、パドヴァ近郊のヴィラ・デイ・ヴェスコヴィのフレスコ画や、ティツィアーノと共作した肖像画などが挙げられます。彼の作品は、ヴェネツィア派の色彩感覚と、北方絵画の細密描写を融合させた、独特のスタイルを確立しました。

結論

ランベルト・スストリスは、ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノに師事し、その才能を開花させた画家です。風景画を得意とし、その繊細な描写力と色彩感覚は、同時代の画家たちに大きな影響を与えました。彼の作品は、マニエリスムから前バロックへの移行期における美術の動向を示す貴重な資料であり、16世紀後半のイタリア美術を理解する上で欠かせない存在です。

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