ラン・ダルマ

ラン・ダルマ：吐蕃王朝の終焉を招いた王

ラン・ダルマ（803年/809年 - 842年/43年）は、古代チベットの吐蕃王朝の王であり、護教王として知られるチツク・デツェンの弟でした。兄の崩御後、王位を継承しましたが、彼の治世は、吐蕃王朝の終焉へと向かう転換期となりました。

仏教弾圧者としてのイメージ

後代に編纂された仏教年代記において、ラン・ダルマは仏教弾圧を行った王として記録されています。名前の「ラン」が「牡牛」を意味することから、「廃仏を行った牡牛のような暴君」というイメージが付与されました。しかし、これらの史書の記述については、疑問視する研究者も存在します。

中国の史書では、ラン・ダルマは飲酒と狩猟を好む残忍な君主として描かれています。しかし、佐藤長は、中国の史書では亡国の君主が悪く書かれる傾向があるため、その信憑性に疑問を呈しています。

多様な側面を持つ王

近年、ラン・ダルマに対する見直しが進んでいます。13世紀末にプトゥンが作成した仏教書の目録には、ラン・ダルマが中観について述べた著作が存在することが記されています。また、敦煌文献には、ラン・ダルマの長寿を願う祈祷文が残されています。これらの事実は、彼が仏教に対して全く理解がなかったわけではないことを示唆しています。

廃仏についても、ラン・ダルマは周囲の圧力に押されてやむなく行ったとする意見もあります。当時の吐蕃では、軍事中心・仏教偏重の政策からの転換が求められており、ラン・ダルマは、その流れの中で権力闘争に巻き込まれた可能性があります。

暗殺と王朝の分裂

842年頃、ラン・ダルマは宰相によって暗殺されました。暗殺の理由は定かではありませんが、彼の死後、吐蕃はバー氏と外戚のブロ氏を中心とする2つの政権に分裂し、王朝の衰退が加速しました。

ラン・ダルマは、仏教弾圧者としての一面だけでなく、中観思想の研究者、そして政治的陰謀の犠牲者という、複雑な側面を持つ人物でした。彼の治世は、吐蕃王朝の終焉へと向かう時代の転換点であり、その評価は、今後の研究によってさらに深まっていくことが期待されます。

参考文献
佐藤長『中世チベット史研究』（東洋史研究叢刊, 同朋舎出版, 1986年3月）
山口瑞鳳『チベット』下（東洋叢書4, 東京大学出版会, 1988年3月）

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