ラヴェンナの初期キリスト教建築物群
ラヴェンナの初期キリスト教建築群は、1996年にユネスコの世界遺産に登録された、イタリア・ラヴェンナにある歴史的建造物群です。この遺産群は、5世紀初頭から6世紀末にかけて建設された初期キリスト教の聖堂や礼拝堂を対象としており、西ローマ帝国、東ゴート王国、そして東ローマ帝国（ビザンツ帝国）といった、歴史的に重要な3つの政権が交錯したラヴェンナの繁栄を今に伝える貴重な遺産です。
ラヴェンナは、西ローマ帝国が410年に西ゴート族の侵略を受けた後、ミラノから遷都され、首都としての役割を担うようになりました。その後、東ゴート王国の首都となり、さらに東ローマ帝国がイタリア統治の拠点として総督府を置いたことで、政治的、経済的に重要な都市として発展しました。ホノリウス帝がミラノからラヴェンナに遷都した際、この地はすでに良港クラッシスを擁する交易都市として栄えており、751年まで西の首都として機能しました。この繁栄の時代に、西ローマ帝国の皇妹皇母ガッラ・プラキディア、東ゴート王テオドリック、そして東ローマ帝国ユスティニアヌス1世時代のラヴェンナ司教マクシミアヌスらによって、数々の聖堂や礼拝堂が建設されました。750年までに、ラヴェンナには60以上の聖堂が建てられたと伝えられています。
しかし、8世紀末になるとラヴェンナは政治的な重要性を失い、急速に衰退しました。その後、歴史の表舞台に再び立つことはなく、経済活動も停滞したため、大規模な建て替えが行われることもありませんでした。このことが、当時の建築や美術が豊富に残された理由の一つです。第一次世界大戦中には、オーストリア軍の砲撃によってサンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂のファサードが破壊されたり、第二次世界大戦中の1944年には空爆を受けたりするなどの危機もありましたが、幸いにも壊滅的な被害を受けることはありませんでした。そのため、ラヴェンナは、古代ローマの都市ポンペイと同様に、当時の姿を現代に伝える貴重な都市として、「初期中世のポンペイ」と呼ばれることもあります。
5世紀から6世紀の都市の全体像は、発掘調査があまり進んでいないため、まだ明確には把握されていません。しかし、世界遺産に登録された聖堂の他にも、サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂（1568年に取り壊され、近年再建）、サンタ・クローチェ聖堂（ガッラ・プラキディア廟堂の本体で後に再建）、ラヴェンナ司教ウルススによって建設された大聖堂バシリカ・ウルシアーナなど、多くの宗教建築が再建されています。
ガッラ・プラキディア廟堂: 皇妹皇母ガッラ・プラキディアによって建設されたとされる、彼女の霊廟。実際には殉教者記念礼拝堂である可能性が高いとされています。内部の天井部分には創建当時のモザイクがほぼ完全に残っています。
大聖堂付属（正統派）洗礼堂: ラヴェンナに残る最も古い建築物の一つ。司教ウルススと次代の司教ネオンによって、バシリカ・ウルシアーナの付属洗礼堂として建設されました。ネオン洗礼堂とも呼ばれます。アリウス派と正統派のキリスト教解釈の違いから、洗礼堂を共有できなかったため、建設されました。壁面とドームには美しいモザイク画が描かれ、壁面下層には5世紀に作られた浮き彫りを見ることができます。
サンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂: 大王テオドリックによって、大宮殿に隣接して建設されたバシリカ。聖堂の上部壁面には6世紀のモザイクがほぼそのまま残っており、テオドリックの宮殿も描かれています。ただし、アプスのモザイク装飾の有無は不明です。
アリウス派洗礼堂: ニケア公会議で異端とされたアリウス派の洗礼堂で、大王テオドリックによって建設された、現存する数少ないアリウス派の遺構です。第二次世界大戦中に爆撃を受けましたが、現在は修復されています。
大司教館礼拝堂: ラヴェンナ司教ペトルス2世によって、バシリカ・ウルシアーナに隣接する司教宮殿内部に建てられた礼拝堂です。かつては様々な宝物が奉納されていましたが、現在でも天井には美しいモザイクが残っています。
テオドリック廟: 大王テオドリックの霊廟。切り石による組積構造で、ドームは巨大な一枚岩で出来ています。霊廟の内部には石棺が残されていますが、遺品や副葬品などは残っていません。
サン・ヴィターレ聖堂: 東ゴート王国の摂政アマラスンタによって起工され、ラヴェンナ司教マクシミアヌスが完成させたラヴェンナを代表する聖堂です。殉教者記念礼拝堂でもあります。内陣には、皇帝ユスティニアヌス1世と皇后テオドラをはじめとするモザイク画が残っています。
サンタポリナーレ・イン・クラッセ聖堂: ラヴェンナ司教マクシミアヌスによって、当時のラヴェンナの外港クラッシスに建設されたバシリカです。壁面のモザイクは失われてしまいましたが、内部の空間構成はほとんど建設当時のままです。アプスには素晴らしいモザイクが残っています。
この世界遺産は、以下の世界遺産登録基準を満たし、登録されました。
(1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
ローマ建築
ビザンティン建築
* 初期キリスト教美術
歴史的背景
ラヴェンナは、西ローマ帝国が410年に西ゴート族の侵略を受けた後、ミラノから遷都され、首都としての役割を担うようになりました。その後、東ゴート王国の首都となり、さらに東ローマ帝国がイタリア統治の拠点として総督府を置いたことで、政治的、経済的に重要な都市として発展しました。ホノリウス帝がミラノからラヴェンナに遷都した際、この地はすでに良港クラッシスを擁する交易都市として栄えており、751年まで西の首都として機能しました。この繁栄の時代に、西ローマ帝国の皇妹皇母ガッラ・プラキディア、東ゴート王テオドリック、そして東ローマ帝国ユスティニアヌス1世時代のラヴェンナ司教マクシミアヌスらによって、数々の聖堂や礼拝堂が建設されました。750年までに、ラヴェンナには60以上の聖堂が建てられたと伝えられています。
しかし、8世紀末になるとラヴェンナは政治的な重要性を失い、急速に衰退しました。その後、歴史の表舞台に再び立つことはなく、経済活動も停滞したため、大規模な建て替えが行われることもありませんでした。このことが、当時の建築や美術が豊富に残された理由の一つです。第一次世界大戦中には、オーストリア軍の砲撃によってサンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂のファサードが破壊されたり、第二次世界大戦中の1944年には空爆を受けたりするなどの危機もありましたが、幸いにも壊滅的な被害を受けることはありませんでした。そのため、ラヴェンナは、古代ローマの都市ポンペイと同様に、当時の姿を現代に伝える貴重な都市として、「初期中世のポンペイ」と呼ばれることもあります。
5世紀から6世紀の都市の全体像は、発掘調査があまり進んでいないため、まだ明確には把握されていません。しかし、世界遺産に登録された聖堂の他にも、サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタ聖堂（1568年に取り壊され、近年再建）、サンタ・クローチェ聖堂（ガッラ・プラキディア廟堂の本体で後に再建）、ラヴェンナ司教ウルススによって建設された大聖堂バシリカ・ウルシアーナなど、多くの宗教建築が再建されています。
主な建築物
ガッラ・プラキディア廟堂: 皇妹皇母ガッラ・プラキディアによって建設されたとされる、彼女の霊廟。実際には殉教者記念礼拝堂である可能性が高いとされています。内部の天井部分には創建当時のモザイクがほぼ完全に残っています。
大聖堂付属（正統派）洗礼堂: ラヴェンナに残る最も古い建築物の一つ。司教ウルススと次代の司教ネオンによって、バシリカ・ウルシアーナの付属洗礼堂として建設されました。ネオン洗礼堂とも呼ばれます。アリウス派と正統派のキリスト教解釈の違いから、洗礼堂を共有できなかったため、建設されました。壁面とドームには美しいモザイク画が描かれ、壁面下層には5世紀に作られた浮き彫りを見ることができます。
サンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂: 大王テオドリックによって、大宮殿に隣接して建設されたバシリカ。聖堂の上部壁面には6世紀のモザイクがほぼそのまま残っており、テオドリックの宮殿も描かれています。ただし、アプスのモザイク装飾の有無は不明です。
アリウス派洗礼堂: ニケア公会議で異端とされたアリウス派の洗礼堂で、大王テオドリックによって建設された、現存する数少ないアリウス派の遺構です。第二次世界大戦中に爆撃を受けましたが、現在は修復されています。
大司教館礼拝堂: ラヴェンナ司教ペトルス2世によって、バシリカ・ウルシアーナに隣接する司教宮殿内部に建てられた礼拝堂です。かつては様々な宝物が奉納されていましたが、現在でも天井には美しいモザイクが残っています。
テオドリック廟: 大王テオドリックの霊廟。切り石による組積構造で、ドームは巨大な一枚岩で出来ています。霊廟の内部には石棺が残されていますが、遺品や副葬品などは残っていません。
サン・ヴィターレ聖堂: 東ゴート王国の摂政アマラスンタによって起工され、ラヴェンナ司教マクシミアヌスが完成させたラヴェンナを代表する聖堂です。殉教者記念礼拝堂でもあります。内陣には、皇帝ユスティニアヌス1世と皇后テオドラをはじめとするモザイク画が残っています。
サンタポリナーレ・イン・クラッセ聖堂: ラヴェンナ司教マクシミアヌスによって、当時のラヴェンナの外港クラッシスに建設されたバシリカです。壁面のモザイクは失われてしまいましたが、内部の空間構成はほとんど建設当時のままです。アプスには素晴らしいモザイクが残っています。
登録基準
この世界遺産は、以下の世界遺産登録基準を満たし、登録されました。
(1) 人類の創造的才能を表現する傑作。
(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
関連事項
ローマ建築
ビザンティン建築
* 初期キリスト教美術
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