ラヴ・オーヴァー・ゴールド

イギリスを代表するロックバンド、ダイアー・ストレイツが1982年に世に送り出した通算4枚目のスタジオレコーディングアルバムが、『ラヴ・オーヴァー・ゴールド』（Love Over Gold）です。この作品には、1980年からのツアーに帯同しバンドに加わったギタリストのハル・リンデスとキーボーディストのアラン・クラークが初めてレコーディングメンバーとして名を連ねています。

背景

アルバムのオープニングを飾る大作「テレグラフ・ロード」は、そのタイトルが示す通り、アメリカ合衆国の国道24号線、特にミシガン州を通過する区間の通称に由来しています。バンドを率いるマーク・ノップラーは、ツアー中にバスでこの道を通った際の情景と、ノルウェーの作家クヌート・ハムスンのノーベル賞受賞作『土の恵み』から得た着想を融合させてこの楽曲を創作しました。

興味深いエピソードとして、本作の制作時期にノップラーは女性の視点から描かれた楽曲「プライヴェート・ダンサー」を書き上げていましたが、自らボーカルを取ることにためらいを感じ、最終的にはティナ・ターナーにこの曲を提供しました。この楽曲はターナーのキャリアを代表する1984年のアルバムのタイトル曲となり、大ヒットを記録しました。ターナーによるバージョンでは、ノップラーを除くダイアー・ストレイツのメンバーが演奏に参加しており、ギターパートはジェフ・ベックが担当するという豪華な顔合わせが実現しています。

アルバムには、ジャズシーンで活躍するヴィブラフォン奏者マイク・マイニエリがゲストミュージシャンとして招かれ、その色彩豊かな演奏で楽曲に深みを加えています。ノップラーがマイニエリの1981年のアルバム『Wanderlust』を耳にした際、その制作を手掛けたエンジニア、ニール・ドーフスマンの仕事ぶりに強い関心を抱きました。この縁がきっかけとなり、本作ではドーフスマンをレコーディング・エンジニアとして起用。さらに、バンド最大の成功作となる次作『ブラザーズ・イン・アームズ』（1985年）では、彼を共同プロデューサーに迎えることになります。

また、本作のレコーディングが完了した後、結成時からのメンバーであったドラマーのピック・ウィザースがバンドを離れる決断をしました。彼の後任には、ロックパイルでの活動で知られるテリー・ウィリアムズが迎え入れられています。

反響

本作は世界中で大きな商業的成功を収めました。特にバンドの母国であるイギリスでは、先行シングル「哀しみのダイアリー」が全英シングルチャートで2位を記録し、バンドにとって初のトップ5シングルとなりました。アルバム自体も全英アルバムチャートで4週にわたり首位を獲得し、通算200週もの間チャート圏内に留まるというロングヒットを記録しました。

ニュージーランドでは、アルバムチャートで27週連続トップ10入りし、そのうち12週で1位を達成する大ヒットとなりました。その後も度々チャートに再登場し、根強い人気を示しています。オランダでは6週、ノルウェーでも5週にわたりアルバムチャートの頂点を極めました。

アメリカ合衆国では、Billboard 200で最高19位にランクインし、1986年4月にはRIAAによってゴールドディスク認定を受けました。アメリカでは「公害病」がシングルカットされ、総合チャートのBillboard Hot 100で75位、ビルボードのメインストリーム・ロック・チャートでは9位を記録しています。日本においても、『コミュニケ』（1979年）以来となるオリコンLPチャートのトップ100入りを果たしました。

評価

本作はその音楽性についても高く評価されています。音楽評論家のStephen Thomas Erlewineはオールミュージックにおいて5点満点中4点を付け、14分を超えるオープニング曲を含む全5曲という構成から「彼らのプログ・ロック的な試みといえるアルバム」と評しました。また、デヴィッド・フリックはローリング・ストーン誌のレビューで同じく5点満点中4点を与え、「殆どのポップ・ミュージックが製品とみなされている時代にあって、『ラヴ・オーヴァー・ゴールド』は敢えて、エアプレイよりも芸術性を優先した」とその芸術的な側面を称賛しています。

収録曲

全曲、マーク・ノップラーによって作曲されました。

1. テレグラフ・ロード (Telegraph Road) – 14:18
2. 哀しみのダイアリー (Private Investigations) – 6:46
3. 公害病 (Industrial Disease) – 5:50
4. ラヴ・オーヴァー・ゴールド (Love Over Gold) – 6:17
5. イット・ネヴァー・レインズ (It Never Rains) – 7:59

他メディアでの使用例

ビル・フォーサイスが監督した1983年のイギリス映画『アイスクリーム・コネクション』では、マーク・ノップラーがサウンドトラックを担当し、本作から「テレグラフ・ロード」と「哀しみのダイアリー」が楽曲として使用されました。フォーサイス監督はこの映画について、『ラヴ・オーヴァー・ゴールド』が持つトーンを作品に反映させたと語っています。

参加ミュージシャン

ダイアー・ストレイツ

マーク・ノップラー – ボーカル、ギター
ハル・リンデス – ギター
アラン・クラーク – キーボード
ジョン・イルズリー – ベース、バックグラウンド・ボーカル
ピック・ウィザース – ドラムス

アディショナル・ミュージシャン

マイク・マイニエリ – ヴィブラフォン、マリンバ (on #2, #4)
* エド・ウォルシュ – シンセサイザー・プログラム

もう一度検索