ラ・グロリア (ティツィアーノ)

ティツィアーノ作『ラ・グロリア』

『ラ・グロリア』（La Gloria）は、ヴェネツィア派の巨匠ティツィアーノ・ヴェチェッリオが手掛けた油彩画であり、神聖ローマ皇帝カール5世（スペイン国王カルロス1世）の依頼により、1554年に完成しました。ティツィアーノ自身は本作を『天国』と呼び、カール5世は遺書の中で『最後の審判』と記しましたが、作品の複雑な図像から『聖三位一体』や『聖三位一体の礼拝』とも呼ばれています。この作品は、ティツィアーノの署名が画面左下、福音記者ヨハネの持つ巻物に記されています。

作品の歴史と所蔵

完成後、本作はカール5世が隠棲したユステ修道院に持ち込まれました。彼は臨終の際、この絵画を見つめながら最後の審判での救済を願ったとされています。その後、この作品はエル・エスコリアル修道院を経て、1837年からはマドリードのプラド美術館に所蔵されています。なお、作品の題名『ラ・グロリア』を最初に付けたのは、1601年のホセ・デ・シグエンザでした。

図像と解釈

本作は、その題名が示す通り、複数の解釈を包含する複雑な構成を持っています。画面最上部には、父なる神と子イエス・キリストが三位一体として描かれ、その重要性が強調されています。彼らの下には、旧約聖書に登場する人物たちが、万聖画のように一堂に会しています。聖母マリアと洗礼者ヨハネは、三位一体と旧約聖書の人物たちとの橋渡し役として描かれています。

この作品は、アウグスティヌスの『神の国』に基づき、祝福された者が栄光を受ける場面を表しています。プロテスタントの教義に対抗し、ハプスブルク家のカトリック信仰の正当性を主張する意図が込められています。画面右側には、白い死装束をまとったカール5世をはじめ、ハプスブルク家の人々が神の前に提示されています。カール5世の横には、亡き妻イサベル・デ・ポルトゥガル、息子のフェリペ2世、妹マリアらが描かれています。

興味深いことに、フェルディナント1世とその息子マクシミリアン2世は描かれておらず、当時の神聖ローマ帝位継承をめぐる対立が反映されていると考えられています。また、画面中央右端には、ピエトロ・アレティーノとティツィアーノ自身が描かれているとも言われています。聖母の下にいる髭の人物は、ヴェネツィア大使フランシスコ・デ・ヴァルガスであるとされています。画面下部には、ダビデ王、モーセ、ノアなどの旧約聖書の人物が描かれ、緑色の服を着た女性はマグダラのマリア、エリュトライのシビュラ、ユディト、ラケル、あるいはカトリック教会を象徴すると考えられています。彼女の姿は、ミケランジェロの『最後の審判』を想起させます。

まとめ

『ラ・グロリア』は、ティツィアーノの卓越した画力と、深い神学的な知識が融合した傑作です。神聖ローマ皇帝カール5世の信仰と権威を象徴するとともに、ハプスブルク家のカトリック信仰を力強く表現した作品として、今日でも多くの人々を魅了しています。本作は、単なる宗教画にとどまらず、歴史的・文化的にも重要な意味を持つ作品と言えるでしょう。

もう一度検索