ラ・シオタ駅への列車の到着

『ラ・シオタ駅への列車の到着』

この作品は、1895年にフランスでリュミエール兄弟によって製作された、白黒サイレントの短編ドキュメンタリーフィルムです。フランス語原題は「L'arrivée d'un train en gare de La Ciotat」といい、リュミエールの作品カタログでは653番に登録されています。

作品内容と制作

約50秒の映像は、フランス南部の海沿いの町、ラ・シオタにある駅に蒸気機関車が到着する様子を捉えています。初期リュミエール作品の典型で、特別な編集やカメラ操作は行われず、日常生活の一場面をリアルタイムで写し取っています。撮影はラ・シオタで行われ、リュミエール兄弟が開発した多機能カメラ「シネマトグラフ」が使用されました。フィルムは35mm、画面アスペクト比は1.33:1です。

公開と混同

この作品は、1895年12月28日にパリで行われたリュミエール兄弟初の有料公開上映会で上映されたとされることがありますが、これは誤りです。実際の上映リストには含まれておらず、初めて有料公開されたのは1896年1月です。「駅への列車の到着」という似た名前で、リヨン近郊の駅で撮影された別の作品（カタログ番号8）と混同されることもあります。一般公開に先立ち、1895年中に試写会が複数回行われています。

公開当時の反響と伝説

このフィルムは、映画史における最も有名な逸話の一つを生みました。それは、上映を見た観客たちが、スクリーン上の列車が自分たちに迫ってくるように見えたことに驚き、恐怖で逃げ出したというものです。この伝説の真偽には疑問を呈する映画史家も多く、「映画創成期の俗説」であるという意見もあります。伝説が正確かどうかはともかく、当時の人々が、これほどまでに写実的な動く映像に強い衝撃を受けたことは確かでしょう。リュミエール兄弟自身も、駅のプラットホームの至近距離にカメラを置くことで、列車が迫りくる効果を意図的に生み出していました。

映像技法の意義

この作品は、その映像構成においても注目されます。駅の風景を捉える遠景から始まり、列車が近づくにつれて中景、そして到着した列車と人々の近景へと、被写体の動きによって視点が変化します。カメラは固定されたままで、被写体（列車）の移動が遠近感を伴う映像表現を生み出しています。この、対象の動きによって視点が段階的に変化していく手法は、後の映画編集における重要な技術であるモンタージュの先駆けと見なされることもあります。

三次元版の可能性

ルイ・リュミエールは後にステレオカメラを用いてこの作品を再撮影し、三次元版として1935年に上映しています。観客の過激な反応の伝説は、初期の映画史家が、二次元版とこの三次元版の上映時の反応を混同した結果ではないか、という説も存在します。

現在の状況

この歴史的なフィルムは、現在インターネット上などで容易に無料で視聴できます。また、初期映画のコレクションを収めたDVDやブルーレイなどにも多数収録されています。

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