ラ・ヴァレ

ラ・ヴァレ（原題: La Vallée、別名: Obscured by Clouds）は、1972年に製作されたフランス映画です。バーベット・シュローダーが監督と脚本を務め、ニューギニアの雄大な自然を舞台に、一人の女性の精神的な旅と自己探求を描いています。この映画は、イギリスの著名なロックバンド、ピンク・フロイドが音楽を担当したことでも特に知られており、彼らが手掛けたサウンドトラック・アルバムのタイトルに由来する『雲の影』という副題が併記されることもあります。

物語の主人公は、オーストラリアのメルボルンに駐在するフランス領事の妻、ヴィヴィアーヌ（ビュル・オジエ）。都会での生活に満たされないものを感じていた彼女は、ニューギニアの秘境に隠されたという伝説の谷を目指す探検隊に加わります。表面的な目的は、その地にしか生息しないとされる非常に珍しい鳥の美しい羽を入手することでしたが、それは彼女にとって閉塞的な日常からの逃避であり、内面的な変化を求める旅でもありました。

パプア・ニューギニアの鬱蒼とした熱帯雨林や、ギルウェ山の険しい自然の中を進む中で、ヴィヴィアーヌは次第に現代社会の価値観や自身の地位から解放されていきます。そして、彼らは外部の世界からほとんど隔絶された暮らしを送るマプガ族と出会います。世俗的な常識や物質文明とは無縁の、彼らの純粋で飾り気のない生き方に触れることで、ヴィヴィアーヌは自身の人間性や真の自由について深く考えさせられることになります。探検隊が目指した谷は、かつての地図に「雲の影」（Obscured by Clouds）と記されていた場所であり、文明の論理が及ばない、ある種の楽園として描かれます。ヴィヴィアーヌはこの地で、探していた鳥の羽以上に価値のある、自身の内なる発見を果たします。

本作の音楽は、サイケデリックからプログレッシブ・ロックへと進化を遂げつつあったピンク・フロイドが担当しました。彼らは映画のためにオリジナルの楽曲を提供し、それを基にサウンドトラック・アルバム『雲の影』を制作・リリースしました。しかし、アルバム完成後、バンドと映画製作側との間で意見の相違があったとされています。その結果、バンドはサウンドトラック・アルバムを映画の原題である『La Vallée』とは異なる『Obscured by Clouds』というタイトルで発表することを決定しました。これに応じる形で、映画自体も公開時に『La Vallée (Obscured by Clouds)』という副題が付け加えられることになったのです。このアルバムは、バンドの代表作『狂気』の直前にリリースされ、そのサウンドは次作への重要な橋渡しとなっています。

主要キャストとして、主人公ヴィヴィアーヌをビュル・オジエが繊細かつ存在感豊かに演じています。共演にはジャン＝ピエール・カルフォン、ヴァレリー・ラグランジュらが名を連ねています。また、キャストとしてミケット・ジローディ（クレジットはモニーク・ジローディ名義）も参加。彼女は当時映画の編集に関わっていましたが、後にプログレッシブ・ロックバンドのゴングにボーカリストやシンセサイザー奏者として参加。さらにパートナーのスティーヴ・ヒレッジと共にエレクトロニック・ユニット、システム7を結成するなど、異色の経歴を持つ人物です。

スタッフとしては、ヌーヴェルヴァーグ以降のフランス映画を代表する名カメラマン、ネストール・アルメンドロスが撮影を手掛けており、ニューギニアの神秘的で美しい自然を見事に捉えています。

『ラ・ヴァレ』は、辺境への旅を通して、現代社会の束縛や価値観から解放され、自己の本質と向き合うことの重要性を静かに問いかける作品と言えるでしょう。ピンク・フロイドの実験的でありながら叙情的なサウンドトラックは、主人公の心理的な変化や、未知なる土地の雰囲気を効果的に演出し、映画の世界観を一層深めています。

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