ラーセン・オープニング

ラーセン・オープニング (Larsen's Opening)

ラーセン・オープニングは、チェスにおけるオープニングの一つであり、白の初手として1. b3を選択することによって始まります。この特異な名前は、デンマーク出身の世界的なチェスプレーヤー、ベント・ラーセンがこの初手をしばしば採用し、得意としていたことに由来しています。そのため、1. b3という一手指し手だけで、彼の功績を称える形で「ラーセン・オープニング」と命名されました。

このオープニングはまた、「ニムゾヴィッチ・ラーセン・アタック」あるいはより短く「ニムゾ・ラーセン・アタック」と呼ばれることもあります。これは、著名な理論家アーロン・ニムゾヴィッチが提唱した、センターポーンを早期に進めずに駒の展開を優先する考え方と共通する部分があるためです。ラーセン・オープニングは、ゲームの序盤から手数が長くなる傾向があり、白は柔軟な駒組みを目指します。

オープニングの基本思想

1. b3という初手は、白がキングサイドのビショップをb2マスへ展開（フィアンケット）し、ロングダイアゴナル（a1-h8）から黒のクイーンサイドやセンターを間接的にコントロールしようとする意図を示しています。これは、d4やe4のようなセンターポーンを早期に進める伝統的なオープニングとは異なるアプローチです。白は局面に応じて、様々な駒組みを選択できる柔軟性を持っています。

主要な変化と黒の応手

ラーセン・オープニングに対する黒の応手は多岐にわたります。最も一般的な黒の初手としては、センターポーンを進める1... e5が挙げられます。この場合、白は通常2. Bb2とビショップをフィアンケットします。その後の展開の一例として、以下のようなラインがあります。

1. b3 e5
2. Bb2 Nc6
3. e3 Nf6
4. Bb5 d6
5. Ne2 g6
6. d4 Nd7

この変化はあくまで一例であり、黒は1手目から1... e6, 1... d5, 1... c5, 1... b6, 1... Nc6, 1... Nf6など、非常に多様な応手を選ぶことができます。白はこれらの黒の応手に対して、自身の駒組みを柔軟に対応させていく必要があります。

白の2手目2. Bb2は、1. b3の意図を明確にする自然かつ最善の応手とされています。黒の2手目としては、2... d6のように1... e5で前進させたポーンを支える手も有力な選択肢の一つです。

白の3手目の選択肢

白の3手目としては、前述の3. e3が標準的なラインですが、他の選択肢も存在します。

3. c4: この手は、ラーセン自身が得意としていた変化です。センターへの圧力をかけたり、クイーンサイドでの戦いを誘発したりする狙いがあります。しかし、常に白にとって有利に働くわけではありません。例えば、1970年のベオグラードでの対ボリス・スパスキー戦や、同年のジーゲンでの対ポルティッシュ戦で、ラーセンはこの3. c4を選択しましたが、結果は白の投了に終わっています。具体的な変化として、1. b3 e5 2. Bb2 Nc6 3. c4 Nf6と進むことが多いです。その後の白の4手目は、対スパスキー戦では4. Nf3、対ポルティッシュ戦では4. e3と指されました。これらの実戦例は、この変化が難しい局面を生み出すことを示唆しています。

3. Nf3: この手も考えられますが、黒は3... e4とポーンを進めることでナイトを追い払う展開になりやすいです。例えば、3... e4 4. Nd4 Nf6 5. c4 Bc5 6. e3 0-0 7. Be2 Re8のような変化では、黒が比較的スムーズに駒を展開し、指しやすい局面となる傾向があります。

その他の変化

白はキングサイドのビショップだけでなく、キングサイドのビショップもフィアンケットする「ダブル・フィアンケット」を目指すこともあります。例えば、1. b3 e5 2. Bb2 Nc6 3. e3 Nf6に続いて、4. g3と指し、次の手で5. Bg2とキングサイドのビショップもフィアンケットする戦略です。これは、両翼からセンターを間接的にコントロールしようとする構えです。

まとめ

ラーセン・オープニングは、伝統的なオープニングとは異なる戦略的なアプローチをとるため、相手を戸惑わせる効果を持つことがあります。しかし、特定の変化では白にとって難しい局面が生じることもあり、その後の展開はプレーヤーの力量に大きく左右されます。柔軟な駒組みと局面判断が重要となる、興味深いオープニングの一つと言えるでしょう。

参考文献

有田謙二 著 『チェス・マスター・ブックス 1 定跡と戦い方』 河出書房新社
有田謙二 著 『チェス・マスター・ブックス 5 やさしい実戦集』 河出書房新社

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