リアリズムの宿

リアリズムの宿

『リアリズムの宿』は、漫画家つげ義春による作品。昭和48年（1973年）に発表された漫画作品であり、後に山下敦弘監督によって映画化もされています。

漫画『リアリズムの宿』

つげ義春の「旅もの」作品群の中でも、『庶民御宿』と並び称される傑作として知られています。つげ独特のユーモアセンスと、読者へのサービス精神が発揮された完成度の高い作品です。

舞台は冬の鰺ヶ沢。暗く、貧しげな町の様子がリアルに描かれており、作品全体の悲壮感を際立たせています。作中には「鰺ヶ沢は漁港の町で床屋がやたら多い」という描写がありますが、これは事実に基づいています。ストーリーは、つげ自身の体験と創作が入り混じったもので、作中に登場する「エビス屋」という宿は架空のものです。

作品のラストでは、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』の一説が引用され、効果的な演出となっています。隣室から聞こえる子供の朗読というエピソードは、つげが実家で妹の教科書に『蜘蛛の糸』が載っているのを見つけたことから着想を得たもの。ただし、深夜に子供が勉強する声が聞こえたのは事実であり、他にもいくつかの実話が織り込まれています。

つげ自身は、作中に登場する宿について「本当に惨めな宿でした」と回想しています。当時の旅行情報が乏しい時代に、つげは宮本常一や柳田国男の著作、『図説日本文化地理体系』などを参考に、辺鄙な場所を探し求めていました。また、いつかそうした場所に隠棲したいという思いも、旅の動機の一つでした。

当時のつげは、一般誌での執筆も増えていましたが、仕事は少なく、将来への不安を抱えていました。漫画のネタ探しのために侘しい場所へ行くという設定は、当時のつげ自身の心境を反映したものです。

写真家のマキエマキは、つげ義春の熱心なファンであり、特に『リアリズムの宿』を愛読しています。「宿じゅうの人が入った後のお湯がドロドロで汚い」「宿の子供が朗読をしていて眠れない」「おかみさんがサービスすると言ったけど、全然サービスされた気がしなかった」といった点が、彼女の心を捉えて離さないと言います。

映画『リアリズムの宿』

2003年には、山下敦弘監督によって映画化されました。原作の雰囲気を取り入れつつ、ほぼオリジナルのストーリーで、アテのない旅をする男女3人を描いたロードムービーです。原作のエピソードとしては、主に『会津の釣り宿』が用いられています。

駆け出しの脚本家・坪井と映画監督・木下は、共通の友人である船木に会うために温泉街へ向かいます。しかし、船木は現れず、2人は仕方なく旅を続けることに。そこで出会ったのは、服を全て海に流されてしまったという女性・敦子でした。3人は行動を共にしますが、敦子は突然姿を消してしまいます。金も底をつき、ようやく辿り着いた宿は最悪の環境でしたが、坪井と木下の間には絆が芽生え、共に脚本を書くことを約束します。

翌朝、2人は女子高生の中に敦子の姿を見つけ、微笑みを交わします。

キャスト

坪井小介：長塚圭史
木下俊弘：山本浩司
川島敦子：尾野真千子

スタッフ

監督：山下敦弘
脚本：向井康介
音楽：くるり

ロケ地

国英駅
岩美駅
三朝温泉

関連情報

芥川龍之介『蜘蛛の糸』
* 続編『ランブラーズ２』(2021年)

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