会津の釣り宿

会津の釣り宿

『会津の釣り宿』は、つげ義春が1980年に発表した短編漫画作品です。主人公が友人と奥会津へ釣りに出かける道中を描いた作品で、ユーモアに満ちたストーリーと、旅情を誘う風景描写が魅力となっています。

概要

冒頭の「旅に出て旅心をくじかれるとつくづく情けなくなる」という一文が印象的なこの作品は、つげ義春の『旅もの』シリーズに属します。しかし、本作をもって『旅もの』は終わりを告げます。作者は本作について、「表現者意識なんてものはない」と語っており、作風の自然な変化がうかがえます。

ストーリーは作者の空想に基づいているものの、一部のエピソードは実体験が元になっています。例えば、作品に登場する巨岩が川を遡上していく話は、つげが釣りの本で読んだ逸話がヒントになっています。また、主人公が持ち込んだ酒を隣室に隠す場面は、実際に作者が木賊温泉で体験した出来事です。

あらすじ

主人公の青年は友人と共に奥会津へ釣り旅行に出かけますが、目的の玉梨温泉の旅館は洪水で休業していました。仕方なく別の民宿に泊まり、近くの渓流で釣りを試みますが、成果は上がりません。そこに現れた地元の中年男性からヤマメを買い、意気揚々と宿へ帰ると、なんとその男は宿の主人でした。

夕食時、友人は隠し持っていたウィスキーを飲もうとしますが、主人が現れたため慌てて隣室に隠します。しかし、主人が去った後、ウィスキーは空っぽになっていました。千鳥足で現れた主人は、酒は一滴も飲めないと告げ、うなだれてしまいます。

その後、二人は露天風呂へ向かいます。主人の話によると、その風呂桶は洪水で流されてきたもので、元は下流の床屋のものだったそうです。洪水の際、風呂に入っていた床屋の娘が裸のまま流れ着き、主人に助けられたという話を聞き、主人公たちは自然の神秘を感じるのでした。

気分転換に木賊温泉へ立ち寄る場面で物語は幕を閉じます。

玉梨温泉

作品の舞台となった玉梨温泉は、只見川の支流である野尻川沿いに位置します。この地は古くから水害に悩まされており、度重なる洪水の被害を受けてきました。近年でも2015年の台風18号により、露天風呂が使用不能になるなどの被害が出ています。これらの水害は、地元では河童の仕業と伝えられており、河童退治の伝説も残っています。

現在、玉梨温泉と八町温泉は合わせて「玉梨八町温泉」と呼ばれています。八町温泉は、1969年の洪水で壊滅的な被害を受け、源泉を失ってしまいましたが、玉梨温泉から引湯することで温泉地としての命脈を保っています。

泉質は含二酸化炭素-ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩泉で、神経痛や関節痛、慢性消化器病などに効能があるとされています。飲泉も可能です。

収録本

「必殺するめ固め」つげ義春漫画集（晶文社）
「蟻地獄・枯野の宿」（新潮文庫）

映画作品

2003年には、山下敦弘監督により『リアリズムの宿』の題で映画化されました。本作は、『リアリズムの宿』と『会津の釣り宿』を原作としています。

脚注

玉梨温泉
野尻川 (福島県))
木賊温泉
リアリズムの宿

外部リンク

* 金山町温泉ガイド

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