リアル・ワールド・レコード

リアル・ワールド・レコードは、ロック界の巨匠としても広く知られるミュージシャン、ピーター・ガブリエルによって1989年に創設された独立系音楽レーベルです。その設立の根幹には、彼自身のワールドミュージックへの深い造詣と情熱、そして世界中の多様な音楽文化をより多くの人々に届けたいという強い思いがありました。

ガブリエルは、音楽、芸術、ダンスを通じて異文化間の交流を促進する国際フェスティバル、「ワールド・オブ・ミュージック・アーツ・アンド・ダンス（WOMAD）」の共同主宰者の一人として、長年にわたり活動しています。このフェスティバルで彼が出会った、母国では高い評価を得ているものの、国際的な認知度が十分でない多くの才能あふれるアーティストたちの存在が、リアル・ワールド・レコード設立の直接的な契機となりました。彼らの優れた音楽性を支援し、世界市場へ紹介するための確固たるプラットフォームを構築することを目指したのです。

レーベルの本拠地は、ガブリエルが所有する最先端の録音施設であるリアル・ワールド・スタジオに併設されており、イギリス南西部のウィルトシャー州、自然豊かなボックス村に位置しています。この静かで創造的な環境は、訪れるアーティストたちが集中して音楽制作に取り組むための理想的な空間を提供しており、そこで生み出される作品にもその雰囲気が反映されています。

レーベルが最初に世に送り出した記念すべき作品は、著名な映画監督マーティン・スコセッシによる映画『最後の誘惑』のサウンドトラック・アルバム、『パッション』でした。このアルバムでは、当時まだ国際的な知名度が低かったパキスタンの偉大なカッワーリー歌手ヌスラット・ファテ・アリ・ハーンや、セネガルの国民的歌手ユッスー・ンドゥールといった、世界の非西洋音楽シーンを代表するアーティストたちが大胆にフィーチャーされました。このリリースは大きな反響を呼び、彼らのその後の国際的なキャリアにおける重要な転機となると同時に、リアル・ワールド・レコードが単なる商業レーベルではない、真に独創的で文化的に意義のある音楽を紹介する存在であることを世界に知らしめました。

リアル・ワールド・レコードの特筆すべき取り組みの一つに、「レコーディング・ウィーク」があります。これは1991年、1992年、1995年の3回にわたり、世界中から様々なジャンル、文化背景を持つミュージシャンたちがリアル・ワールド・スタジオに集まり、約一週間にわたって集中的なセッションやコラボレーションを行う企画でした。言語の壁を超え、即興と実験精神に満ちたこのユニークな試みから、多くの刺激的な音楽が生まれました。これらのセッションで録音された音源の中から厳選された楽曲が、長年の編集作業を経て、2008年にアルバム『ビッグ・ブルー・ボール』としてリリースされ、再び注目を集めました。

これまでに、リアル・ワールド・レコードは実に多様な音楽性を持つアーティストの作品を発表してきました。前述のヌスラット・ファテ・アリ・ハーンやユッスー・ンドゥールをはじめ、アフリカ、ケルト、エレクトロニックサウンドを融合させるアフロ・ケルト・サウンド・システム、ウズベキスタンのセヴァラ・ナザルハン、キューバの伝統音楽を継承するクレオール・クワイアー・オブ・キューバ、バングラデシュのバウル音楽家パバン・ダス・バウルなど、そのラインナップは世界各地に及びます。彼らの作品は、それぞれの地域の豊かな音楽遺産を基盤としつつ、時に現代的な感性や異文化との融合によって新たな地平を切り拓いています。設立者であるピーター・ガブリエル自身のソロ作品の一部も、このレーベルからリリースされています。

リアル・ワールド・レコードは、単に音楽を録音・販売するだけでなく、異なる文化が出会い、交流し、新たな創造が生まれるプラットフォームとしての役割を果たしています。グローバル化が進む現代において、画一化されがちな音楽シーンの中で、多様な文化的な音楽表現の価値を再認識させ、アーティストと世界中のリスナーを結びつけるその活動は、今後も音楽界において重要な意義を持ち続けるでしょう。

もう一度検索