リジェ・JS37

リジェ・JS37：期待と挫折の物語

1992年のF1世界選手権を舞台に、リジェチームは新たな挑戦者としてリジェ・JS37を投入しました。フランスの誇るルノーエンジンを搭載したこのマシンは、開発段階から多くの注目を集めました。長年リジェを支えてきたジェラール・ドゥカルージュがデザイナーとして復帰、さらにアラン・プロストがテストドライバーを務めたことも話題を呼びました。

開発の苦悩：JS35からの脱却とウィリアムズFW14との類似性

開発は1991年3月にスタート。これまでのランボルギーニV12エンジンからルノーV10への変更は、マシンの設計に大きな影響を与えました。コンパクトになったエンジンに合わせて、JS37は前モデルであるJS35よりも全長とフロントノーズが短く、より洗練されたデザインとなりました。

しかし、開発は容易ではありませんでした。設計を担当したフランク・ダーニーは、JS35の失敗を踏まえ、ゼロベースからの設計を指示したと語っています。しかし、リスクを最小限に抑えるという意識が、思い切った革新を妨げた面もあったようです。結果として、モノコックはJS35と似た形状となり、ダーニー自身もその点を悔やんでいました。

完成したJS37は、ウィリアムズFW14と似たデザインであるという噂が流れました。リアディフューザーの形状もFW14と類似しており、一部ではルノーを通して設計図を入手したのではないかと憶測されました。しかし、ダーニーはこれを否定。同じルノーエンジン、似たドライバーのドライビングスタイルなどから、類似性が出たのは仕方のないことだと説明しています。実際、エンジンマウント方法など、JS37にはFW14とは異なる独自の工夫が施されていました。また、流行しつつあったモノショックダンパーではなく、従来型のツインダンパーを採用するなど、冒険を避けた設計も見られます。

空力面では、流行のコルセア・ウィングを採用したものの、ウィング翼が厚く、ノーズ先端も太めだったことから、空力処理の古さが指摘されました。低速テクニカルコースでは、大型のフロントウィングフラップを追加することでグリップ不足を補いました。

1992年シーズン：期待外れの結果とチームの終焉

ドライバーは前年と同じくティエリー・ブーツェンとエリック・コマス。しかし、シーズン序盤でブーツェンとコマスが接触事故を起こしたことで、チーム内の雰囲気は悪化しました。

シーズンを通して、JS37はウィリアムズFW14Bなどのライバルマシンに比べてシャーシ性能で劣っていることが明らかでした。ルノーV10エンジンは以前のものより大幅に改良されていましたが、シャシーの剛性不足が足を引っ張ったのです。ブーツェンもシャシーの剛性不足を指摘しており、チームの期待に応えることができませんでした。

シーズン終盤には、資金不足も噂されました。リジェは限られた予算の中で、セッティングを工夫することでマシンの欠点を補おうとしていましたが、それは限界がありました。

シーズンを通してわずか4回の入賞、6ポイント獲得という結果に終わったJS37。リジェはF1チーム運営への意欲を失い、チーム売却を決意します。マクラーレンとの合併の話もありましたが、実現せず、最終的に元AGSのシリル・ド・ルーブルにチームは売却されました。

JS37の開発を主導したダーニーは、シーズン終了後にベネトンへと移籍しました。リジェ・JS37は、高い期待を背負いながら、様々な困難に直面し、結果的にリジェチームのF1撤退を招いた、ドラマチックなマシンと言えるでしょう。

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